※このブログに書いていることは、私の関わりある法人の意見ではなく、
 あくまでも、私個人の意見です。

2025年07月06日

第8章新型コロナウィルスと私たちのこれから(エビデンスを嫌う人たち最終章)




※ここの部分は、第一次トランプ政権になっているので、大きく状況が異なっていると思われます。

 まず HIV で起こったことから。

 南アフリカのタボ・ムベキ大統領(当時)は2000年初頭、エイズ対策のための専門家会議を招集。その報告でムベキ大統領は「エイズの原因はウィルスではなく免疫力の低さであり、ニンニク、ビーツ、レモンジュースの摂取によって治療できるようだ」

 その結論に至った原因は「AZT のような抗HIV薬はアフリカ人を毒殺しようとする西洋諸国の陰謀だ」という陰謀論を信じたから。

 結果、2000年から2005年にかけて生じた早期死亡は36万5千人と見られている。

Sarah Boseley, "Mbeki AIDS Denial 'Caused 300,000 Deaths,' " Guardian, November 26, 2008,

(ガーディアンの記事。なお、スクロールして下のほうに出てくるサポートのお願い文が面白い)
 たぶん、著者が書いている数字は、元になったハーバードの論文の数字で、記事とは少し違っている。しかし、論文へのリンクは切れている。

 著者は新型コロナウィルスに対しての科学コミュニティーの意見に反対する意見を、第2章で出てきた「科学否定の5つの類型」に当てはめていきます。そしてこれらが時の政権(アメリカでは第一次トランプ政権)に肯定されたためによりひどい状態になったと。

Eugene Jarecki, "Trump's Covid-19 Inaction Killed Americans. Here's a Counter that Shows How Many," Washington Post, May 6, 2020,
(ワシントン・ポストの記事)

 著者は新型コロナウィルスに対しての科学コミュニティーの意見に反対する意見を、第2章で出てきた「科学否定の5つの類型」に当てはめていきます。そしてこれらが時の政権(アメリカでは第一次トランプ政権)に肯定されたためによりひどい状態になったと。

1.証拠のチェリーピッキング

比較的軽症のケースに着目することで、重篤な合併症や死亡のリスクを軽く見る。

2.陰謀論への傾倒



3.偽物の専門家への依存

 トランプがマスク不要論を唱えるステラ・イマニュエルの仕事について「非常に感銘を受けた」「見事だ」と称賛した。その後、イマニュエルの主張には
「卵巣嚢胞や子宮内膜症といった婦人科の病気は、夢の中で悪魔や魔女とまぐわることで引き起こされる」
「科学者は人々が宗教的になるのを防ぐためにワクチンを作っている」などもあることがわかった。

4.非論理的な推論

2020年2月7日のトランプ発言
「(新型コロナは)消えつつある。ある日、奇跡のように消えてしまうだろう」
2020年夏
「アメリカで感染者が増加したのは、たんに検査数が増加したからだ」→事実は陽性率も上昇していた。

5.科学への現実離れした期待

 著者は「現実離れした期待」というよりも、「科学者がコロコロと意見を変えた」ことへの一般の方の不満のほうをあげている。しかしこれも「科学への現実離れした期待」のひとつなのかな?真実は1つ、みたいな。実際は、今までの定説に対して、新な実験や疫学的な調査で出てきたエビデンスで、過去の定説を否定するようになることはよくある。

 例「マスクはウィルスには役立たない」これ、2020年初頭には常識的だったと思うけれど、すぐに新しい様々なエビデンスが出て「マスクは(完璧ではないが)役に立つ」に変わった。

 なお、アメリカではマスクの要不要論は完全に党派で別れたとのこと。

 私は「科学への現実離れした期待」とは「◯◯の薬で治った!」というデマを信じるようなことを言うのではないか、と思うけれど。「薬が病気を治してくれる」という科学信仰は強いと思う。

 トランプではヒドロキシクロロキン。日本ではイベルメクチンやアビガンetc.


 そしてさらに「国外からの影響」

Robin Emmott, "Russia Deploying Coronavirus Disinformation to Sow Panic in West, EU Document Shows," Reuters, March 18, 2020,
ロシアはコロナウイルスの偽情報を流して西側諸国にパニックを起こさせているとEU文書が指摘


 研究者によると、「アメリカの再開」について議論しているTwitterアカウントのほぼ半分はボットである可能性があるという。

 そして
「研究者らは、「Reopening America」に関するツイートの一部が、コロナウイルスと5Gの携帯電話基地局を結びつけるという、すでに否定された説のような根拠のない陰謀論を引用していることを発見した。」

'Reopening America' というのは、ロックダウンに反対し、経済活動を復活させよう、という運動。2020年の4月には始まっている。

 日本では「緊急事態宣言」が発出され始めたころ。

 まあ、いずれにせよ、国外からの様々な働きかけにより、死者が増えたり、分断が進んだりすることは、相手の国にとって有利になるからやるんだろうな。

 国外の者が、ボットを使って、当該国の撹乱をねらって活動している、ということだろう。

 これは「陰謀」ではなく、本物の「陰謀」というか情報戦であるということ。

科学否定に対する有効な4つの戦略

1.グラフや表の活用
2.科学的コンセンサスの強調
3.個人的なつながり
4.内容的反論と技術的反論(内容的反論はエビデンスのある研究の紹介とかだろうけど、技術的反論というのはよくわからない)


 私たちは、他者、特に自分と意見の異なる相手ともう一度対話をはじめる必要がある。
 (そしてまずは傾聴)

 科学の不確実性を認めることは、結果的に信頼を高める場合がある。

 メモはここまで。

 で、今、どんなことを第二次トランプ政権がやっているかというと





Long Covid office ‘will be closing,’ Trump administration announces
 トランプ政権、コロナ後遺症対策事務所を「閉鎖」と発表

 今後、まだまだいろいろなことが起こりそうです。
posted by kingstone at 21:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 本・記事・番組など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『エビデンスを嫌う人たち』第5章〜7章




(アマゾンでは、紙版は古本だけになっていて、2倍近い値段になっていますね。Kindle版は 2112円)

 だいぶ前に読み終わっていたのですが、興味が別の方に行ってて、読書メモを書けませんでした。

 で、本当に、第二次トランプ政権の発足で、もうここに書かれている事態からかなり変化してしまっていると思われます。


第5章 炭鉱のカナリア

 「科学肯定派」は、「科学否定派」を無視したり、頭から否定するのでなく、「対話」が必要、という自分の説を実践しようと、炭鉱の町に著者は行きます。


という活動をしているご夫妻に泊めてもらい、近隣の炭鉱で働く人々に声をかけてもらうことにしました。

 そして、小さな食堂みたいなところを予約した。炭鉱で働いて来た方スティーブとダグの2名を紹介してもらったが、事前には行けるかどうかわからないとのことで、電話でインタビューもされています。

スティーブ(気候変動は起こっている、と考えている)

「炭鉱労働者というのは炭鉱労働者というのは運命論者であることを理解してもらいたい。この仕事は、緩慢な死のようなものなんだ」
 それでも働くのは、家族のためなんだ。


ダグ(気候変動は起こっている、と考えている)

 自分は塵肺を患っている。しかし金は稼げる。
 炭鉱の仕事が無くなれば地域の学校も無くなる。
「トランプは過去どの大統領よりも多くの石炭発電所を閉鎖した」
 会合には Center for Coalfield Justice(CFJ) という過激な団体が来るかもしれない。そうなれば公正な話し合いは無理になるかもしれない。

で、当日は6人の人が、スティーブとダグ、そして CFJ の人も集まったのだけれど、全員「気候変動は起こっている」と考えている人だった・・・

 なかなか対話しようと思っても、「気候変動は起こっている」と考えている人の集会に「気候変動は起こっていない」と考えている人は参加しにくいだろうし、「気候変動は起こっていない」と考えている人の集会に「気候変動は起こっている」と考えている人は参加しにくいだろうな。

 またやって来た、CFJ の人は全然過激な人じゃなかったと・・・

 これな・・・1999年に知人が京都で1泊2日のちょっとした学会大会みたいなのを企画して、私は講師として、1コマをもう1人の方と1/2コマずつ担当することになった。

 私は、私の学校が「威嚇と暴力」の学校であることを伝えた上で、TEACCH的な取り組みで、私のクラス(学年)はすごく変わり、そしてそのための基礎として、絵カードづくりをする、というワークショップをすることにしました(私は手を動かすことが大事、と考えているので)。

 もう1/2コマ担当する方(現在非常に有名。かつ日本でのTEACCH的取り組みというか視覚的支援の普及に大きな功績のある方)は、確か視覚的支援の重要性を話されたと思う。

 しかし、その方は事前に私のレジメを見た時に「TEACCH の名前、出すの?出さない方がいいんじゃないかな」と言って下さった。その方ご自身が、名前を出して痛い目に会っておられたのだと思う。まるで名前を出してはいけない戦前の非合法共産党か、って感じですけど。まあ、私は「どこから学んだか」は重要だと思っているので、TEACCH の名前を出しましたけど。

 まあ、実際、当時私も地域の中ではいろいろと攻撃されていたし、一緒に勉強している仲間たちを最前線で矢面に立って守っている感じでした。なかなか難しいものです。


 結局、著者は「気候変動なんか無い」という人とは対話できずに帰られます。

 しかし、科学的に正しいか正しくないか、というのとは別に、経済的にやっていけるか、いけないかというのも大きな問題としてあることはキモに銘じはります。


第6章 リベラルによる科学否定

 今まで見てきた科学否定は主として共和党(右派?保守?私は何かカテゴリーが違うように感じますが)系の人たち。

 しかし、リベラル(著者はリベラルと左派を同じ意味で使っているように見えます。同じ単語を続けないという原則で交互に使っている感じ。しかしこれもカテゴリーが違う気が・・・)による科学否定はないのか、と考え

・反ワクチン
・反遺伝子組み換え食物(反 GMO)

 について調べてみます。

 なお、現時点では、ワクチンは有害事象を凌駕する効果の証拠がある。

 GMO については、現時点では有害を示唆する証拠は無い。

 この「現時点では有害を示唆する証拠は無い」から使うのか、それでも将来に対してまだよくわからないから使わないのか(効果については、食料増産ができ、飢餓が救える)。

 なお、GMO 食品がほとんど無いイギリスと、かなり食べられているアメリカで、各種癌の発生率に、過去からの変化は見られていない。



第7章 信頼と対話

 昔から親しくつきあっている、GMO を嫌う人との1対1での対話。

リンダ:手作り食品を販売している。
サイトには「農家からあなたのもとへーーオーガニック・グルテンフリー、NON-GMO などと書かれている。

テッド:環境生物学者

 いずれも、リスペクトを持って話し合え、リンダは GMO を嫌ってはいるが、科学的に否定する気は無いことがわかる。

 テッドとは、この話題に関しては平行線だったが、テッドもまたいろいろ調べてみることを約束してくれた。

 で、この章の後半は、政治的姿勢と反ワクチン、反GMO のそれぞれに相関があるのか、調べたものを出し、相関は無い、それよりも「陰謀論を信じるか否か」が大きく影響するという研究結果を紹介しています。

The Role of Conspiracist Ideation and Worldviews in Predicting Rejection of Science
Stephan Lewandowsky ,Gilles E. Gignac,Klaus Oberauer
2013

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2025年07月03日

行動的 QOL の増大とオードリー若林さん



「行動的QOLに基づく支援とはどのような実践か」
高山仁志•中鹿直樹(2021)『対人援助学研究』 11, 48-59

を読んで。

 あれれ?

 先日までリンクがはっきりしていたと思うのですが、今、リンクが貼れないや。不思議?

 この論文、事例がわかりやすいです。

 まず「行動的QOL : 「行動的健康」へのプロアクティブな援助」で定義づけられた3段階

@「(選択性はないが)正の強化を受ける行動」を成立させる段階
A選択肢があり選択できる段階
B既存の選択肢を本人が否定できたり、本人が新たな選択肢を要求できる段階

の紹介をします。そして『対人援助の心理学』(2007)望月昭編集 から

「援助」支援を受ける対象者の行動を「いま、ここ」で成立させるために、これまでなかった新しい物理的・人的な環境設定(援助設定)を導入する作業

「援護」支援者が社会(環境)に向けて援助設定の定着を要請する作業

「教授」従来の指導教育(おしえる)活動などに代表される

という定義を紹介し、望月先生が「援助」を優先させるべきと述べていると。

 で、この論文で、はは〜、と面白かったのが

 つまり、行動的QOLを導入した実践でまず取り組むべき重要な作業は、「正の強化を手段ではなく目的」とした、「対象者個人の行動の成立のための援助」作業といえる。
 このような方針に基づいた支援は、我々が生きる社会に当たり前のようにあふれている。先述した駅の階段,赤・黄・青色で表示される信号機、蛇口をひねれば出てくる水など、ありとあらゆる社会的インフラと呼ばれるものが、正の強化を目的として行われている支援といえる。一方で,社会的インフラによって正の強化を目的とした生活を送れない人びとを、障害者を含む社会的弱者と呼ぶとも考えられる。正の強化を手段から目的へという指針は,様々な支援(援助設定,環境設定)を、広くすべての人びとも受けられるようにするという方針を示している。

 そして行動的 QOL を上げる具体例が出てきます。

◯学生ジョブコーチの例

 喫茶店業務に初めて従事する生徒(その前の例では、特別支援学校の生徒だったので、この例も特別支援学校の生徒と考えられる)に対して、学校側からは「実習期間中に適切なタイミングで自分から大きな声で挨拶ができるようになる」という希望が出ていた。

 初日には黙ってしまったり、他の生徒から「聞こえない」「ちゃんとして」と叱責を受けたりした。

 学生ジョブコーチは、例え小さな声でもすかさずポジティブなフィードバックを行った。求められている基準に達していなくても、ポジティブなフィードバックを繰り返した結果、「できる」が拡大した。

◯犬のトレーナーの例

 散歩中に出会う子どもを避けるようになった結果、散歩自体も拒否するようになった芝犬と飼い主に対する支援。

 こういう場合苦手な刺激に馴れさせる(暴露)対応が取られることがある。

 最初にやってみたが芝犬がパニック様の行動を見せたので中止。

 そして「芝犬が問題なく歩ける場所を探して、積極的に出かける」に方針変更。

(つまり苦手なことをやれるようになる、やらせる、というところから、君が君のままで行けるところに行こう(できる環境を見つける)へ)

 最初に広いところに行ってみたが、やはり子どもの姿が見えるとパニック。

 行く場所を河川敷に変え、当時 1.2mのリードだったのを、10mの長さのリードに変えた(柴犬に逃げる自由を与えた)。するとアイコンタクトや飼い主を追いかけるなど、強化で維持される行動が増えた。

 ところが、飼い主さんが河川敷だと面白くないのか、「河川敷へ連れていく」ことがあまり起きなくなった。

 そこで、行く場所を、川や海、山、ドッグランなど様々な場所にすることで(提案していかれたんだろうな)、柴犬とご家族の選択肢の拡大が達成された(子どもを嗅ぎに行ったり、柴犬のほうから散歩を要求することも出てきた)。


 何か、すごくよくわかる気がします。



 で、題名に何でオードリー若林さんが出てくるかというと、先日の


の中で、若林さんが娘さんの話をしてはりました。

 昼間公園に行くと、たくさんの子供達の刺激にびびってしまい、若林さんにしがみついて離れない。

 実は若林さんも、もともとは人見知りだからその気持がよくわかる。

 そこで、娘さんと夜8時に公園に行くと、誰もいない公園で娘さんは活き活きと遊んだ、という話をされていました。

 これも「馴れろ」ではなく、「君が君のままでできる環境を探そう」という考え方だよね。

 やっぱり若林さんてすごい人だなあ、と思いました。

 この回の激レアさんは、すでに Tver では見ることができなくて、 TELASA で有料だと見ることができますね。

posted by kingstone at 18:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 特別支援教育や関わり方など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「ロヴァースと自閉症科学のクィア史」を読む



 ニューロダイバーシティ側からの ABA 批判について、(別に ABA の専門家でもない)私が回答するとしたら、どうだろうか?と考えて書いてきたこのシリーズ。

をまとめてみて、アメリカでの ABA、及びその影響を強く受けた地域では、ニューロダイバシティ側の人たちが言うことがもっともな場面がまだまだあるのだろうな、という気がしてきました。

 日本でも 30年ほど前だと、「この子本人にとてはどうだろう?」なんてことはあまり考えず、周囲(保護者、教師、研究者etc.)が「良かれと思って」作った標的行動に向けて、やっていたところが多いようだし。(例えば就学前の子どもが黒板に向かって45分座れることを目指そう、だとか)

 その中で望月先生の主張は 1987年時点でかなりすごいものだったのじゃないかな。ただ、それが広がりを見せる(?見せてると思うのだけど)のはいつくらいからだろう。

 あと、これもかなり昔から論文はあり、日本で最近は当たり前のように論じられることの多くなった「機能的アセスメント」は「この子は何を得ているのだろう」を考え「では行動問題とかではなくそれを得るにはどうしたらいいのだろう」と考える点において、本人の「今、ここ」を肯定していると思えるのですが。(本人の悪いところを直す、治すという視点では無い)

 さて、今回は

"Disturbing Behaviors: Ole Ivar Lovaas and the Queer History of Autism Science"
(Margaret F. Gibson & Patty Douglas, 2016)
「不穏の行動:ロヴァースと自閉症科学のクィア史」

について

まず第一著者の Margaret F. Gibson さんについて、ChatGPT に調べてもらうと

 カナダにある、Renison University College(レンイソン大学カレッジ)と University of Waterloo(ウォータールー大学)で社会開発学・ソーシャルワークの准教授。社会福祉、女性・ジェンダー研究との共同プログラムで博士。

主な活動

“Neurodiversity Matters” プロジェクトを主導 − 神経多様性という用語や概念を様々な立場やコミュニティでどのように捉え、実践に結び付けているかを人類学的かつ参加型のアプローチで調査

• “Eloping”(逃避行)プロジェクト − 自閉スペクトラムの人たちが突然その場から離れる体験(eloping)が、彼らのウェルビーイングや自己表現にどう関わるかを当事者視点で検証

• LGBTQおよび障害識別を有する親たちの支援環境や制度との関係性を、エスノグラフィー(参与観察・聞き取り)やテキスト分析を用いて探る研究にも従事

とのことです。

 ChatGPT にしてもらった論文の要約を以下にまとめます。

 先に、私の感想・結論を書いておくと

「そりゃ、こんなこと、ABA の名の元にやってたら非難されるんが当然やなあ」

 で、そして実際に今のアメリカの現場でも同じようなことがやられている現場もある可能性は十分あります。(日本では、私の周囲に限って言えば、現在こんなやり方してる人はいない、と言っていいと思います。ただし、日本でも「無いとは言えない」わけで、実際そういうところで学んだ人との対応に困ってしまったこともあります)

 あと、今に関して言えば、AFIRM に関する論文でも触れられ、また私も特殊教育学会に参加していても思う、「研究者や実践者の発表していること」と「現場で実際にやっていること」の乖離の問題も、あるのかもしれない。


目的

 本論文は、ABA(応用行動分析)と性別違和行動(gender-disturbed behaviors)への「矯正」介入が、いかに同じ行動主義的ルーツを持つのかを歴史的に分析したものです。
 具体的には、Ole Ivar Lovaas(ロヴァース、ABAの創始者の一人)が同時期に行った

• 自閉症児へのABA療法
• “Feminine Boy Project”(女性的な男児への性別矯正療法)

という2つの介入を重ね合わせて検証します。
また、それが現代のABAの倫理的問題とどう繋がっているかを、クィア障害学(queer disability studies)の視点から問い直しています。

背景

• 2016年、自閉症当事者 Amy Sequenzia が ABAを「自閉症版のコンバージョンセラピー(Autistic Conversion Therapy)」 と呼び、議論を巻き起こした。

• 著者たちはこの主張に着目し、ABAと性別矯正(conversion)療法の共通ルーツを、Lovaasの論文(1965〜1988)とその歴史的文脈から読み解く。

 なお、この Sequenzia さんは「ABA はだめ。FC(Facilitated Communication)が良い」と主張されているようですが、私の「障害のある人の手を持ってするコミュニケーション」についての見解は以下に書いています。

※2016年というのは、autism speaks が「治療・予防・治癒」をミッションから外した年でもあるな。

Lovaasの2つの研究領域

◯自閉症児へのABA

• 自閉症児に「正常」な行動を教え込み、「自閉的」な行動を消去することを目指した。
• 肯定的強化(positive reinforcement) と 罰・電気ショックなどの嫌悪刺激(aversives) を併用。
• 「正常な友人と区別がつかなくなった」とされる 47% の成功率(1987年論文)を有名にした。

◯Feminine Boy Project

• 性的・性別的に非典型な子ども(特に「女性的な男児」)に対して「男性的」な行動を強化し、「女性的」行動を減らす介入。
• 主にLovaasと学生のGeorge Rekers により推進された(Rekersはその後、ゲイやトランスへのコンバージョンセラピー擁護者に)。
• 研究室内では報酬の除去が中心だったが、家庭では身体的罰も指導。

◯理論的枠組みと分析視点

• Foucaultの「現在の歴史(history of the present)」の視点から、ABAの権力作用を問題化。
• クィア障害学の視点(Eli Clare, Robert McRuer, Melanie Yergeau ら)から、ABAが「正常」概念を再生産し、非定型な存在(autistic, queer, trans)を「矯正すべき問題」と見なしてきたことを批判。
• 「正常な未来」というナラティブが、身体的・心理的暴力を正当化してきた構造を明らかにする。

主な議論と発見

◯行動主義の「希望」と「絶望」構造

• Lovaas は「既存の治療は失敗しておりABAこそ唯一の希望」という構図を作り、過剰な期待と正当化を行った。
• 「正常化」成功事例を強調しつつ、多くの失敗や被害は語られなかった。

◯エリート主義と植民地主義

• 対象児は白人・中産階級・男児が中心 → 社会的「希望の未来」として矯正の対象とされた。
• ABAは西洋中産階級的な「理想の子ども像」を押し付けた → 植民地主義的価値観の再生産。

◯子どもの「欲望」自体が矯正対象

• 子どもの「選択」や「欲望」そのものが間違ったものとされ、親・治療者が正しい方向に「教育」しなければならないとされた。
• クィアな欲望や自閉的な行動は「未熟」「危険」と見なされた。

◯家庭・母親の動員

• ABAは母親を「治療者」役割に巻き込み、家庭を行動矯正の場に変えた。
• 母親たちが「希望の物語」に巻き込まれ、多大な労力と感情的負担を負う構造。

◯現在への影響

• ABAは今日も主流の自閉症療法として位置づけられ、多くの国で公費助成対象。
• 他方、LGBTQのコンバージョンセラピーは広く批判され規制が進む。
• だが、ABAへの批判は主流科学や政策にまだ浸透していない。

結論

• Lovaasの仕事は科学的知見というよりも、「矯正すべき子ども像」を社会に浸透させた。
• 自閉症、ジェンダー非典型、クィアな子どもたちの存在そのものを問題化し、規範的な発達像に押し込めた。
• 今日のABAはその歴史的文脈を無批判に継承しており、倫理的再考が必要。
• クィア障害学的アプローチは、非定型な存在や未来像の価値や尊厳を再評価し、新たな視点を提供できる。


なお、参考文献にあった、ロヴァースとショプラーのものをこちらにもあげておきます。

Lovaas, O. (1979). Contrasting illness and behavioral models for the treatment of autistic children: A historical perspective. Journal of Autism and Developmental Disorders, 9(4), 315-323.
Lovaas, 0.(1979). 自閉症児の治療における対照的な病気と行動モデル:歴史的展望。自閉症と発達障害のジャーナル,9(4),315-323.

Lovaas, O. (1987). Behavioral treatment and normal educational and intellectual functioning in young autistic children. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 55(1), 3-9.
Lovaas, 0.(1987).若年自閉症児の行動療法と正常な教育的・知的機能。コンサルティングと臨床心理学のジャーナル,55(1),3-9.

Lovaas, O. & Simmons, J. (1969). Manipulation of self-destruction in three retarded children. Journal of Applied Behavior Analysis, 2(3), 143-157.
ロヴァス、0.&シモンズ、J.(1969)。3人の知的障害児における自己破壊の操作。
応用行動分析学雑誌,2(3),143-157.

Lovaas, O., Koegel, R., Simmons, J. & Long, J. (1973). Some generalization and follow-up measures on autistic children in behavior therapy. Journal of Applied Behavior Analysis, 6(1), 131-166.
ロヴァス、0.、ケゲル、R.、シモンズ、J.&ロング、J.(1973)。行動療法における自閉症児の一般化およびフォローアップの測定法。応用行動分析学雑誌,6(1), 131-166.

Lovaas, O., Schaeffer, B. & Simmons, J. (1965). Building social behavior in autistic children by use of electric shock. Journal of Experimental Research in Personality, 1, 99-109.
ロヴァス、0.、シェーファー、B.、シモンズ、J.(1965).電気ショックを利用して自閉症児の社会的行動を構築する。パーソナリティ実験研究,1,99-109.

Schopler, E. (1979). Editorial: Special issue on behavioral research.
Journal of Autism and Developmental Disorders, 9(4), 311-314.
Schopler,E.(1979).編集記:行動研究特集号。自閉症と発達障害のジャーナル,9(4),311-314.

 1979年のは、ショプラーが編集記を書き、ロヴァースがそのすぐ後ろに書いてますね(巻頭論文?)。
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2025年07月01日

アメリカの ABA 療育に関する制度と市場



ChatGPT に

「アメリカでの 自閉症児への ABA 療育についての法制度、また市場規模について教えてください」

とプロンプトを入れ、返ってきた回答の裏を取りながら書いていきたいと思います。

 また第二次トランプ政権になったので、現在、とんでもなくしょぼくなっている可能性もあるかもしれません。


1.法制度

連邦法(CONGRESS.GOV で確認)

•Combating Autism Act(2006)
• Autism CARES Act(2014, 2019)

 autism speaks (日本で言えば日本自閉症協会かな?Light It Up Blue は autism speaks が音頭をとっている)の Autism CARES Act の説明では、20年間で 52億ドル(7500億円くらい)が自閉症研究に当てられてきた、とのこと。

 なお、これは ABA 提供費用ではなく、根拠となる研究・インフラ整備・モニタリング・支援を目的とした法整備。

 また、autisum speaks はミッションに、かつては「治療・予防・治癒」を入れていたが、2016年に削除しています。

州レベル

保険適用義務

•全50州で保険適用義務あり

 NCSLやAutism Speaksによれば、全米50州およびDCで、民間保険への自閉症関連サービス(ABA含む)提供義務が成立していますが、カバレッジ額、対象年齢、サービス内容等には大きな差があります 

州の保険義務の寛大さと自閉症スペクトラム障害の労働力の増加
(2022)

この論文によると、

 全体として、ASD 児の多様な身体的および行動的健康ニーズには、チームベースの在宅医療モデルのケアが必要になることが多い ( Todorow et al., 2018 )。最近の推計では、これらの総合的なサービスにかかる平均費用は、知的障害 (ID) のない ASD 児の場合年間 50,000 ドル、知的障害のある児の場合は年間 90,000 ドル近くになる ( Buescher et al., 2014 )。応用行動分析だけでも、年間 46,000 ドル、または 1 時間あたり 120 ドルかかることがある ( Special Learning Inc., 2020 )。過去数十年にわたって、これらの費用の大部分は家族が自己負担してきた ( Callaghan & Sylvester, 2019a ; Parish et al., 2015 )。


為替と生活実感を考えに入れなきゃいけないだろうけど

5万ドル → 約730万円!
9万ドル → 約1300万円!

ABA を1年間利用すると

4万6000ドル → 約670万円!

1時間あたり(「かかることがある」だからもっと安い場合もあるのかも)

120ドル → 約17000円

 だから保険適用ということになるのだろうけど、めっちゃ高いなあ。(最後のだけは、専門職が食べていこうと思ったら、日本でもそのくらい欲しいよね、となるけれど、それだけに少ない回数で、ご家族が安心して過ごせるように、環境設定、アドバイスができなきゃ困るだろうな。

 で、保険適用という話になるわけですが、アメリカの医療保険の話を聞いてると、所得によってはたいへんじゃないかな、と思ってしまいます。

サウスカロライナ州
 16歳未満の行動療法に年間最大5万ドル(インフレ連動)まで保障する「Ryan’s Law」があります


 こちらは年間5万ドル(約730万円)まで援助するわけですが、文内で使われている「Medicaid waiver」が Google 翻訳だと「メディケイド免除」となって、何のことかよくわかりません。

 ChatGPT に尋ねると「  本来のルールを「免除(waive)」して、柔軟な支援を可能にする制度」ということで、要するに所得に関わらず(無料?)利用できるということです。

 しかし、例えば早期発見・早期療育で必要なことをしてこられたなら、16歳のお子さん(もう青年期)にそれだけの ABA 療法をするっていうのも、何か変な話だ、と思ってしまいます。(まあ上限であって、もっと少なくてすむ場合もあるでしょうが)


カリフォルニア州
 SB946 という2011年に制定、2012年施行された法律で、BCBA(行動分析士認定資格。修士レベル)の利用が上限なしでも可能。(プラン書類に明記)



2.最新の民間市場推計


oU.S. Autism Treatment Centers Market(2025年報告):自閉症治療センター市場(ABA含む)は2024年時点で約44億ドル規模(年率3.8%成長予測)

44億ドル → 約6400億円

 ただし、これは薬の販売なども入った額。


oGlobal Market Insights(2023年データ):ABA単独で約40億ドル規模、2024〜2032年にCAGR約4.8%で拡大見込み 

40億ドル → 約5800億円


o別報告では、(ABA 市場は)2023年度は38億ドル、市場は2023〜2033年にCAGR4.5%で成長し、2033年に約59億ドルに達すると予測

38億ドル → 約5500億円
59億ドル → 約8600億円



 約6万8000人のBCBAのうち、4万7000人が自閉症者に積極的に取り組んでおり、サービス提供額は約130〜210億ドル。しかし本来は300〜400億ドルの需要が存在 

130億ドル → 約1兆9000億円
210億ドル → 約3兆円

1兆9000億円を 47000で割ると 1人当たり年収 約 4000万円!!!


 しかしこのサイト、サプライする側だから仕方ないのかもしれませんが、読んでるだけでしんどくなるな・・・「就学前の低年齢の子どもは、通常、最も多くのケアを受け、週40時間を超えることも珍しくありません」なんてことも書いてるし。

 それこそ、アメリカでは預かってくれるところなんか少なく、児童発達支援みたいな感じで「預かり」機能を含んでるんだろうか?

 週5日としたら、1日8時間だよ・・・


 なお、ジョージア州アトランタでパラメディカル(特別支援教育士。昔で言えば介助員)と居宅介護みたいな仕事をしておられる方にお聞きする機会がありました。

 ABA の訪問療育を受ける場合、必ず保護者かそれに代わる人が必要とのことで、その役を2家庭でやって実際にやっているところを見せてもらったと。

 で、高校生のお子さんに、何かできる度にチョコレートを渡すのが1家庭。

 小学生のお子さんと(その方の目では)自然に遊んでいるように見える中でいろいろやってたみたいなのが1家庭。

追記(2025年7月3日)
 後者みたいなのを何て言うんだっけ?とあれこれ考えていたのですが、さっきフリーオペラントという単語が浮かんで来ました。でも、確認したらこれは「測定」に使う言葉みたい。私の知識ってそんなもんです。
 やはり機会利用指導法(incidental teaching)かな?

 そんなのを見たそうです。

 たぶん、小さな頃からやってはると思うのね。前者は日本だと、まずやらないんじゃないかな。

 今まで、何も手立てされてこず、強度行動障害状態になり、初めてお会いした、なんて時だったらあり得るかもしれないけれど。

 小さな頃から社会的称賛に変えたり、家事活動だったらトークン(お金直接でも良いと思うけど)だったり・・・


 何かそのあたりも問題がありそう。



 なお、ABA サービスとは関係無い話ですが、日本だと月23日間放課後等デイサービスを利用したとすると年間で(めちゃくちゃおおざっぱです)、

1万円✕23日=23万円
23万円✕12か月=276万円 → 約2万ドル

 なるほど、物価が日本の3倍高く感じる、という説があるからかかるサービス利用費用としてはこんなもんか。
(で、これが所得に応じて無料、55200円、446400円で使えたりするわけで・・・)


 う〜〜ん、アメリカが「良い」とはとても思えない部分、多いなあ。

posted by kingstone at 17:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 特別支援教育や関わり方など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする