ニューロダイバーシティ側からの ABA 批判について、(別に ABA の専門家でもない)私が回答するとしたら、どうだろうか?と考えて書いてきたこのシリーズ。
をまとめてみて、アメリカでの ABA、及びその影響を強く受けた地域では、ニューロダイバシティ側の人たちが言うことがもっともな場面がまだまだあるのだろうな、という気がしてきました。
日本でも 30年ほど前だと、「この子本人にとてはどうだろう?」なんてことはあまり考えず、周囲(保護者、教師、研究者etc.)が「良かれと思って」作った標的行動に向けて、やっていたところが多いようだし。(例えば就学前の子どもが黒板に向かって45分座れることを目指そう、だとか)
その中で望月先生の主張は 1987年時点でかなりすごいものだったのじゃないかな。ただ、それが広がりを見せる(?見せてると思うのだけど)のはいつくらいからだろう。
あと、これもかなり昔から論文はあり、日本で最近は当たり前のように論じられることの多くなった
「機能的アセスメント」は「この子は何を得ているのだろう」を考え「では行動問題とかではなくそれを得るにはどうしたらいいのだろう」と考える点において、本人の「今、ここ」を肯定していると思えるのですが。(本人の悪いところを直す、治すという視点では無い)
さて、今回は
について
まず第一著者の Margaret F. Gibson さんについて、ChatGPT に調べてもらうと
カナダにある、Renison University College(レンイソン大学カレッジ)と University of Waterloo(ウォータールー大学)で社会開発学・ソーシャルワークの准教授。社会福祉、女性・ジェンダー研究との共同プログラムで博士。
主な活動
• “Eloping”(逃避行)プロジェクト − 自閉スペクトラムの人たちが突然その場から離れる体験(eloping)が、彼らのウェルビーイングや自己表現にどう関わるかを当事者視点で検証
• LGBTQおよび障害識別を有する親たちの支援環境や制度との関係性を、エスノグラフィー(参与観察・聞き取り)やテキスト分析を用いて探る研究にも従事
とのことです。
ChatGPT にしてもらった論文の要約を以下にまとめます。
先に、私の感想・結論を書いておくと
「そりゃ、こんなこと、ABA の名の元にやってたら非難されるんが当然やなあ」
で、そして実際に今のアメリカの現場でも同じようなことがやられている現場もある可能性は十分あります。(日本では、私の周囲に限って言えば、現在こんなやり方してる人はいない、と言っていいと思います。ただし、日本でも「無いとは言えない」わけで、実際そういうところで学んだ人との対応に困ってしまったこともあります)
あと、今に関して言えば、
AFIRM に関する論文でも触れられ、また私も特殊教育学会に参加していても思う、「研究者や実践者の発表していること」と「現場で実際にやっていること」の乖離の問題も、あるのかもしれない。
目的
本論文は、ABA(応用行動分析)と性別違和行動(gender-disturbed behaviors)への「矯正」介入が、いかに同じ行動主義的ルーツを持つのかを歴史的に分析したものです。
具体的には、Ole Ivar Lovaas(ロヴァース、ABAの創始者の一人)が同時期に行った
• 自閉症児へのABA療法
• “Feminine Boy Project”(女性的な男児への性別矯正療法)
という2つの介入を重ね合わせて検証します。
また、それが現代のABAの倫理的問題とどう繋がっているかを、クィア障害学(queer disability studies)の視点から問い直しています。
背景
• 2016年、自閉症当事者 Amy Sequenzia が ABAを「自閉症版のコンバージョンセラピー(Autistic Conversion Therapy)」 と呼び、議論を巻き起こした。
• 著者たちはこの主張に着目し、ABAと性別矯正(conversion)療法の共通ルーツを、Lovaasの論文(1965〜1988)とその歴史的文脈から読み解く。
なお、この Sequenzia さんは「ABA はだめ。FC(Facilitated Communication)が良い」と主張されているようですが、私の「障害のある人の手を持ってするコミュニケーション」についての見解は以下に書いています。
※2016年というのは、autism speaks が「治療・予防・治癒」をミッションから外した年でもあるな。
Lovaasの2つの研究領域
◯自閉症児へのABA
• 自閉症児に「正常」な行動を教え込み、「自閉的」な行動を消去することを目指した。
• 肯定的強化(positive reinforcement) と 罰・電気ショックなどの嫌悪刺激(aversives) を併用。
• 「正常な友人と区別がつかなくなった」とされる 47% の成功率(1987年論文)を有名にした。
◯Feminine Boy Project
• 性的・性別的に非典型な子ども(特に「女性的な男児」)に対して「男性的」な行動を強化し、「女性的」行動を減らす介入。
• 主にLovaasと学生のGeorge Rekers により推進された(Rekersはその後、ゲイやトランスへのコンバージョンセラピー擁護者に)。
• 研究室内では報酬の除去が中心だったが、家庭では身体的罰も指導。
◯理論的枠組みと分析視点
• Foucaultの「現在の歴史(history of the present)」の視点から、ABAの権力作用を問題化。
• クィア障害学の視点(Eli Clare, Robert McRuer, Melanie Yergeau ら)から、ABAが「正常」概念を再生産し、非定型な存在(autistic, queer, trans)を「矯正すべき問題」と見なしてきたことを批判。
• 「正常な未来」というナラティブが、身体的・心理的暴力を正当化してきた構造を明らかにする。
主な議論と発見
◯行動主義の「希望」と「絶望」構造
• Lovaas は「既存の治療は失敗しておりABAこそ唯一の希望」という構図を作り、過剰な期待と正当化を行った。
• 「正常化」成功事例を強調しつつ、多くの失敗や被害は語られなかった。
◯エリート主義と植民地主義
• 対象児は白人・中産階級・男児が中心 → 社会的「希望の未来」として矯正の対象とされた。
• ABAは西洋中産階級的な「理想の子ども像」を押し付けた → 植民地主義的価値観の再生産。
◯子どもの「欲望」自体が矯正対象
• 子どもの「選択」や「欲望」そのものが間違ったものとされ、親・治療者が正しい方向に「教育」しなければならないとされた。
• クィアな欲望や自閉的な行動は「未熟」「危険」と見なされた。
◯家庭・母親の動員
• ABAは母親を「治療者」役割に巻き込み、家庭を行動矯正の場に変えた。
• 母親たちが「希望の物語」に巻き込まれ、多大な労力と感情的負担を負う構造。
◯現在への影響
• ABAは今日も主流の自閉症療法として位置づけられ、多くの国で公費助成対象。
• 他方、LGBTQのコンバージョンセラピーは広く批判され規制が進む。
• だが、ABAへの批判は主流科学や政策にまだ浸透していない。
結論
• Lovaasの仕事は科学的知見というよりも、「矯正すべき子ども像」を社会に浸透させた。
• 自閉症、ジェンダー非典型、クィアな子どもたちの存在そのものを問題化し、規範的な発達像に押し込めた。
• 今日のABAはその歴史的文脈を無批判に継承しており、倫理的再考が必要。
• クィア障害学的アプローチは、非定型な存在や未来像の価値や尊厳を再評価し、新たな視点を提供できる。
なお、参考文献にあった、ロヴァースとショプラーのものをこちらにもあげておきます。
Lovaas, O. (1979). Contrasting illness and behavioral models for the treatment of autistic children: A historical perspective. Journal of Autism and Developmental Disorders, 9(4), 315-323.
Lovaas, 0.(1979). 自閉症児の治療における対照的な病気と行動モデル:歴史的展望。自閉症と発達障害のジャーナル,9(4),315-323.
Lovaas, O. (1987). Behavioral treatment and normal educational and intellectual functioning in young autistic children. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 55(1), 3-9.
Lovaas, 0.(1987).若年自閉症児の行動療法と正常な教育的・知的機能。コンサルティングと臨床心理学のジャーナル,55(1),3-9.
Lovaas, O. & Simmons, J. (1969). Manipulation of self-destruction in three retarded children. Journal of Applied Behavior Analysis, 2(3), 143-157.
ロヴァス、0.&シモンズ、J.(1969)。3人の知的障害児における自己破壊の操作。
応用行動分析学雑誌,2(3),143-157.
Lovaas, O., Koegel, R., Simmons, J. & Long, J. (1973). Some generalization and follow-up measures on autistic children in behavior therapy. Journal of Applied Behavior Analysis, 6(1), 131-166.
ロヴァス、0.、ケゲル、R.、シモンズ、J.&ロング、J.(1973)。行動療法における自閉症児の一般化およびフォローアップの測定法。応用行動分析学雑誌,6(1), 131-166.
Lovaas, O., Schaeffer, B. & Simmons, J. (1965). Building social behavior in autistic children by use of electric shock. Journal of Experimental Research in Personality, 1, 99-109.
ロヴァス、0.、シェーファー、B.、シモンズ、J.(1965).電気ショックを利用して自閉症児の社会的行動を構築する。パーソナリティ実験研究,1,99-109.
Schopler, E. (1979). Editorial: Special issue on behavioral research.
Journal of Autism and Developmental Disorders, 9(4), 311-314.
Schopler,E.(1979).編集記:行動研究特集号。自閉症と発達障害のジャーナル,9(4),311-314.
1979年のは、ショプラーが編集記を書き、ロヴァースがそのすぐ後ろに書いてますね(巻頭論文?)。