ラグビーをひもとく 李淳馹著
ー反則でも笛を吹かない理由
もう、いろいろなことが納得できた本でした。
著者李淳馹(リ・スンイル)さんはフリーライターで、関東ラグビーフットボール協会公認レフリー。
まずラグビー校で、ラグビー発祥時の「エリス少年伝説」について。
よく聞く、サッカーの試合中に思わず手を使ってボールを持ち、得点してしまってラグビーが生まれた、というやつね。これは著者は、ちょっと違う、と言われます。
サッカー協会(フットボール・アソシエーション(FA))ができたのは1863年。
エリスがボールを持って走ったのは1823年。
ラグビー・フットボール・ユニオン(RFU)ができたのは1871年。
実のところ、エリス少年がやっていたのはあくまでも「フットボール」であって「サッカー」ではなかった、と。
なるほど、昔「サルが進化して人間になった」というような話だったけど、それは間違いで「共通の祖先から一方はサルに、一方は人間に進化した」というのが正しいみたいなもんだな。
で、その「フットボール」というのは祭りにおける「群衆(Mob)フットボール」であり、数百人が村全体を押し合いへしあいして得点するものだった。まあ「教会・墓地など」には入っていけないというようなルールはあったとのこと。
野球などはアンパイア(審判者)。これは白黒つけることが仕事。
しかしラグビーはレフリー(仲裁者)。これはゲームを楽しく継続させることが仕事。
だから、反則があったとしても、反則された方に有利になれば笛を吹かずゲームを継続させる。
レフリーの金言。
「いいレフリーは、反則をポケットにしまうことができる」
たぶんラグビーのレフリーにしか無い行為、プリベント。
これは「予防する、防ぐ」の意味で、反則させないために声をかけること。例えば
「リリース・ザ・ボール(抱えているボールを離して)」
「ハンズ・オフ(ボールから手を離して)」
「ロールアウェイ(倒れている人はどいて)」
「ステイ・バック(オフサイドしないように後ろに下がって)」
なるほど、そのまま同じことをやっていたら反則になるよ、だからこうしなさいよ、と予防的に声をかけているわけだ。確かに「反則を見つけて取り締まる」というイメージではないよな。
ルールよりゲーム。
ラグビーにもルールはあるのだが、基本は「Law(ロー、法律)」であり、慣習法である。お互いに納得できれば、そしてレフリーが認めれば「流す」
(なお、ヨーロッパ大陸は「成文法」であり、イギリスは「慣習法」とかいうのは習ったな。だからイギリス発祥のラグビーは「慣習法」的なんだろう)
そうそう。
ゴールラインを越えて敵陣にボールを手で持って置く(グランディング)することを「トライ」と言うけれど、なぜ「トライ」というのかな、と思っていました。解答がこの本にありました。
昔はコンバージョンでキックしてゴールしたものだけが得点になっていたそうです。
だからコンバージョンのキックをトライできるので「トライ」
だから得点はボールをグランディングした時点では入らない。
それが、3点になり、4点になり、現在は5点になっています。
また6点にしようか、という案もあるそう。
これも、いろいろ「楽しめる」ようにルールが改定されてきてるわけですね。
後書きに書かれていること、ほんまやなあ、と思いました。
息子があるとき、「大きくなったらジャパンに入って、オールブラックスを倒すんだ」という壮大な夢を語った。オールブラックスとは言わずと知れた世界最強のニュージーランド代表である。しかし小学校低学年の息子のこと、父親としても「それはすごいな、がんばれ」と笑って答えた。
そのおよそ半年後、ワールドカップが開かれジャパンが南アフリカに勝利した。そのたった1勝で、「大きくなったらジャパンに入って、オールブラックスを倒す」という息子の一言は、違う意味のものになったのだと思う。
いくら親ばかとは言え、それは息子個人のことを言っているのではない。ジャパンが南アフリカに勝利する前、日本中のラグビー関係者にとって「ジャパンがオールブラックスに勝つ」ということは、絶対に不可能とは言えないまでも、少年が「宇宙飛行士になって火星に立ってみたい」というほど壮大な夢だったと思う。だが、ジャパンが南アフリカに勝ったその後では、「宇宙飛行士になって、地球を宇宙から見てみたい」というレベルの夢に変わったのではないだろうか。宇宙飛行士となることは決して簡単なことではないが、努力と幸運の末には実現できる夢であるし、その夢をかなえた日本人は現実にいる。
2015年9月19日、著者は泣いてはったそうです。