先日記事にした
に先立つ、同じ筆者が視覚的支援の範囲を明確にするためのレビュー記事です。
訳は多くは readble により、一部は DeepL によります。
なお、VS(Visual Supports)を 視覚的支援と訳しました。
本研究の目的上、「視覚的支援」(視覚的支援)という包括的な用語は、様々な目的で使用される共通のリソース群を指し、それらは言葉よりも永続的であり、言葉がなくなった後もずっと参照のために残されている。このスコーピングレビューの冒頭で、この傘に含まれる視覚的支援の包括的なリストを入手することは不可能であったため、独自の詳細な定義を提供している。レビューの結果、用語と概念の境界をさらに明確にしたい。 |
これ、「言葉」ってのがちょっと変と思ったら、原文は
For the purpose of this study, the umbrella term 'visual supports' (視覚的支援) refers to a common group of resources, used for various purposes, which are more permanent than words, remaining for reference long after words are gone. |
で、words と複数形になると、研究社新英和辞典第7版によると
「[しばしば複数形で] (口で言う)言葉; 話, 談話」
ですから、私がいつも使用している「音声言語」という言葉のほうが妥当でしょうね。
「音声言語」じゃ硬すぎて「話し言葉」のほうがいいかな・・・
これ、先行研究で「包括的なリスト」が無い、という点、まさに私が悩みまくっている点でした。
そうかあ。2019年に英国ではこんなレビュー(システマティック・レビューではなく、スコープ・レビューってことですが)があったんだ。(英語文献にはなかなかたどり着けないし、見つけてもなかなか全文を手に入れられない)
個人がこれらのコミュニケーション手段を利用するには、個人的な動機付けが必要かもしれませんが、意味や使用方法を教わることは、個人の発達段階に合った視覚支援(視覚的支援)自体がスキル習得を意味するわけではなく、むしろ、無数のスキル習得を支援するために設計されたツールなのです。 |
う〜〜ん、そうなのだけど、それ以外に、「自分で判断するための手がかりを得る」というのが、何か視野から抜けているような気はする。
そして、確かに「こんなスキルを身につけた」「こんな行動障害が無くなっていった」という論文に、どんな視覚的支援を使ったか、みたいな論文は多いのだけど、下記の
私たちのアプローチには、視覚的支援が自閉症児の中核的な実践として一般的に推奨されているという前提が埋め込まれていた。我々の目標は、視覚的支援を使用すべきかどうかを決定することではなく、むしろ、どのような障壁や促進要因が成功の実施に影響を与えるかを解明し、理解を深めることであった。 |
「どのような障壁や促進要因が成功の実施に影響を与えるか(特に保護者に対して)」という論文がほとんど無いのよね。
でもって「視覚的支援が自閉症児の中核的な実践として一般的に推奨されているという前提が埋め込まれていた」
つまり、「視覚的支援は当たり前」ということね。
で、この論文は
目的 1. 自閉症児の家庭での視覚支援に関する文献を特定し、指定の基準に適合するものを選別し、使用されている用語を検討する。 2. 家庭や地域社会で視覚支援を使用した親や専門家の経験を評価する。 3. 調査結果を実践への提言に役立てる。 |
というために書かれたと。
そして、論文レビューだけでなく、支援者・保護者にアンケートをし、アンケートに答えてくれた人に、フォーカスグループ(インタビューをするためのグループ。ここではプロフェッショナル(って支援者か)2名、保護者2名(とあと、この論文を書いた人たちの1人とかかな?)を作り、これには7人の保護者と15名のプロフェッショナルが参加してくれた。(それぞれ4人+αのグループでグループインタビューをしていったわけ)
で論文レビューでの目的は(数字と改行はkingstone)
1.「視覚的支援」と考えられるものの範囲を明確にすること 2.自閉症者の家族による「家庭」環境での視覚的支援の使用に関する関連研究の包括的な概観を提供すること 3.将来の臨床研究に情報を与える可能性のある文献のギャップを特定すること |
ギャップってのは、「いやそれは現場ではできひんで」みたいなことかなあ。
また
研究以前は、質の高いエビデンスが乏しく、評価をサポートする家庭での視覚的支援の概念的枠組みが発表されておらず、視覚的支援はあるが、より広く再現されている。 |
ってことなのですが、最後のほうで「やっぱり強いエビデンスはないよね」というふうになってます。でも大事だと。もうめちゃめちゃ共感してしまいます。
いろいろ読んで、視覚的支援の使用例は以下の4つのサブグループに分けられたと。(改行はkingstone)
(1) 環境の理解 (2) コミュニケーション支援 (3) 規則や社会的な期待の理解 (4) 環境間の一貫性の維持 |
私の先に書いた「自分で判断するための手がかりを得る」は「環境の理解」に入るのかな。もちろん
・今、何をやればいいのだろう
・次に何があるのだろう
・月日の明日以降の予定は
・ここは何をする場所かな
・この作業はどうやったらいいのかな
・私の買いたいものはどこで買えるかな
・今、十分なお金があるかな
・十分なお金がなかったら、どうしたら貯まるだろう(稼ぎや年金や生活保護)
これら実は全て「環境の理解」ではある。
また保護者へのアンケート結果のうち、どんなことに使わているかを集計すると、多いのは
ヴィジュアル・タイムテーブル(スケジュールですね) 日常生活のシーケンス・チャート(こっちもスケジュールですね) ソーシャル・ストーリー ヴィジュアル・ホームスクール・ダイアリー(絵日記?過去用?未来用?) タイマー |
これは現状を表しているのだけど、やはり運用次第ではあるけれど
「自分で判断するための手がかりを得る」そして「意思表明」する部分が少ないような気がするなあ。で、論文中にもこう書いてある。
臨床的な意思決定を支援するソールは容易に入手できない。発達段階に基づく視覚的支援の評価・計画ツールの開発を推奨する。 |
しかし、ちょっと違和感がある。こう評価・計画ツールとかもういっぱい開発されてきてて、それを覚えられないでアップアップしている人、専門家にも多いのじゃないかな。
おめめどうが常に強調し、応用行動分析でも昔は少数の、今はだいぶ多くの人たちが選択活動の大事さを言うようになってる。
評価・計画ツールがあればあったで良いかもしれないが、まず2択から始める選択活動、これを続ければ「意思決定」は速くなり、意思表出もしやすくなると思うがなあ。
フォーカスグループでの議論で出てきた(地域社会(特に学校)と、保護者が視覚的支援を身につけるために必要なものという)テーマは
1.視覚的支援へのアクセス
診断に依存するのではなく、必要(たぶん困りごと)に対応するタイムリーなサポート。
2.関与重視(Participation-focussed)
訳文には「参加重視」と出てくるのだけど、これは「今、ここ」の保護者への「困りごと」に関与していくことが大事、という意味だと思われる。
3.個別化された計画
2.を実現しようとすれば、当然個別化になるよね。で、人それぞれちがっているから個別化されなきゃいけない。
4.方法を教える
具体的に伝える、ってことだよね。
5.家庭や地域社会で一貫性がある
もちろんこの地域社会という部分の「学校」の役割は大きい。で、別のところで。家族が一貫性の責任を負う(というか負わざるをえない)という話も出てきている。本来は違うはず。しかし現状としては日本でも一貫性を保つためには親御さんがめちゃくちゃ努力を強いられる現状がある。
6.情報と訓練
訓練というのは地域では支援者(特に学校教師)、家庭では保護者に対してであるよな。
で、実践への示唆として、保護者が視覚的支援というものにたどりつくためのアクセシビリティとして
親は、他の親(Machalicek et al.,2014)、または十分な視覚的支援リソースを持つ、十分に訓練された知識豊富なマルチプロフェッショナルチームから、訓練、情報、リソース、実践的・精神的サポートにタイムリーにアクセスする必要がある。 |
いや、まあ、そのとおりなんだけど・・・
で、解決策として(改行はkingstone)
(1)一般的に使用されている視覚的支援をあらかじめ作成したバンクを開発すること(Donato, Shane, & Bronwyn, 2014; Vaz, 2013) (2)参加者は、家庭視覚的支援の重要性について専門家の間で知識を構築し、家族へのアクセスを支援することを提案した。 (3)さらに、「図書館におけるボードメーカー」モデル (Tutin,2013)の使用が確認され、家族が施設に公平にアクセスすることで、視覚的支援や専門家/ピアのサポートが可能になった。 |
ってことです。(「図書館におけるボードメーカー」については、
を参照してください)
またこのレビューでこれを推奨したら良いのではないか、という原則というか態度・やり方というのかが、以下のようになっていて、これは上記論文に生かされています。
1. 対等なパートナーとしての家族。 2. 家族が独自に視覚的支援リソースを作成するためのサポート。 3. 学際的で、ダイナミックで、参加に重点を置き、発達と機能に関連したアセスメントとプラン ニングのプロセス。 4. 専門家と保護者が、視覚的支援 にアクセスするための「時間的なゆとり」を支援する。 5. 家族にとって使いやすい情報と情報提供を提供する。 6. より集中的なスタートアップオプション、ドロップインセッション、ピアサポート、ホーム サポート、親のトレーニング、コーチング、モデリングなど、専門家によるサポートを柔軟に利用 できるようにする。 7. 専門家によるトレーニングと意識向上 8. シンボルセット」や一般的に使用される資料のテンプレートにより、セッティング間の一貫性をサポートする。 |
しかし、この論文著者、マリオン・ラザフォードさん、こういう基礎的な研究から始めて、しつこくしつこく(褒めてる)保護者支援を考え続け、実践していってはる。
すごいなあ。
しかし
家庭用視覚的支援の製作と実施には時間的な制約があることが障壁として挙げられている (Donato et al., 2014; Hayes et al., 2010; Meadan et al., 2011)。家族は特に「時間的貧困( time poor)」である可能性がある。したがって、サービス提供の計画において、重要な要素は、親や専門家からの時間要件であり、成功した結果と釣り合う。 |
とか言うのを読むと私なら
「保護者、忙しいねん。時間無いねん。そやからぱぱっとできるようにせなうまいこといかへんで」
くらいに言いたい私は論文を読むのも書くのも向いてないな、と思います。
この記事を書いたkingstoneの利益相反について
kingstoneはおめめどうフェローです。