※このブログに書いていることは、私の関わりある法人の意見ではなく、
 あくまでも、私個人の意見です。

2024年04月29日

暴言などある子の適切なコミュニケーション行動の形成



自閉スペクトラム症児に対する支援ツールを用いた適切なコミュニケーション行動の形成
― 放課後等デイサービスにおける取り組みを事例に ―
松田 光一郎
人間福祉学会誌/20 巻 (2021) 1 号p. 49-57

 ものすごくかいつまんで紹介するので、興味をもたれた方は、リンクから原文にあたってください。
 ※図はクリックすると大きくなります。

 著者のお立場は、京都文教大学臨床心理学部臨床心理学科とのことで、論文を読んでみると、放課後等デイサービスのスタッフとして入っているのではなく、+αとして現場に入られた感じかな。

 これまでは、自閉スペクトラム症児が示す問題行動をなくすといったリアクティブな対処が優先されることが多かった。現在は、そうした問題行動の機 能を分析し、その機能性により QOL(生活の質)を向 上できるように環境との関係を再編成していく、プロア クティブな方法が求められるようになった(平澤, 2003)。 それゆえ、日常生活において、 1 つのコミュニケーショ ン・モードにこだわらず、自閉スペクトラム症児の実情 に合わせて複数のモードを組み合わせていくことの重要性も指摘されており(野呂・山本・加藤,1992)、好まし いコミュニケーション行動が生起した時に、メリットが 得られる環境や、代替手段を用いて自発的に何かを要求 したり応答したりする経験を蓄積できる環境整備が求められる。

リアクティブ → 事後的な(リアクション芸とかで使われている単語)
プロアクティブ→ 予防的な

対象のお子さんについて

特別支援学校小学部3年。
母親の仕事の都合で、夏季休業期間だけ放課後等デイサービス利用。

放課後等デイサービスに来た時の様子(数字はkingstone)

1.気分のむらが激しく、状況を考えず衝動的で攻撃的な行動が生起し、他の利用者に対してもトラブルが発生
2.筆者や職員への暴言、暴力が頻回に発生
3.対象児への個別対応に時間がとられ、通常業務に支障が見られる状況
4.トランポリンやレゴブロックを自由に使用できないことが自制できず、花瓶などの器物破壊、 突然に事業所外に逃避する
5.コミュニケーション面では、音声や文字による指示理解や意思伝達はできるが、嫌悪場面でのあいさつや会話など、他者に対する適切なコミュニケーション行動は困難

ABC分析し、機能的アセスメントで推測された機能

・逃避
・注目

支援ツール

著者は「PECS が適当だと判断した。」

期間

7月26日〜8月30日、午前9時〜午後3時、27回。

方法

代替コミュニケーションのために

「おはようございます」、「少しまってください」、「教 えて下さい」、「行ってきます」、「済みません」、「ありが とうございます」等が書かれた文字カードを作成し、そ れらをリングでとめ、必要なカードを訓練者に提示する ことで、コミュニケーションの代替手段として機能する よう教授を行なった。


チェックリスト

チェックリストの項目は、「暴言」、「暴力」、「唾 吐き」、「器物破壊」、「逃避」、「その他」の問題行動で構 成され、対象児がそれぞれの項目の行動に対し、その行 動が生起しなかった場合に項目欄に〇印を記入する。さ らに、文字カードの項目は「おはようございます」、「少 しまってください」、「教えて下さい」、「行ってきます」、「すみません」、「ありがとうございます」、「その他」で 構成され、対象児が事業所に来所してからの課題場面で 使用した文字カードについて、対象児がその項目欄に〇 印を記入し、チェックした〇印の合計数を記録する加算 方式とした。また、チェック項目の〇印の 1 日の合計が7 個以上連続して 5 回記録された場合に、トランポリン または、レゴブロックによる遊びを提供するため、トー クン・エコノミーを適用して課題場面の観察と記録を行った。

Fig.2 チェックリストの様式
チェックリスト.png

経過

7月16日〜7月25日
ベースライン期「放課後等デイサービスに来た時の様子」に書いたようなことがいろいろ起こる。

7月18日、19日
プレテスト。ツールの使い方を説明すると、対象児がすぐに使いたいと言い、B職員に「おはようございます」と書いたカードを提示すると「おはようございます」と返してくれた。それに続けてチェックリストの記入方法を教えた。
(このさい対象児に称賛や結果のフィードバックを与えなかった、と書かれている。でもまあ例えばB職員は反応しているわけだ。しかし後のグラフを見て頂くと、20日以降も問題行動は減っていないので、その後25日まではベースライン期でいいわけか・・・)

介入例

7 月26日:対象児は来所するなり、「喉が渇いた。何か飲み物を用意しろ!」とA職員に暴言を吐いた。A職 員は興奮している対象児に落ち着くように促したが、唾 を吐いて抵抗した。訓練者は、チェックリストを見せて 記録するように促すと、素直に記述し始め、項目欄で少 し迷っていたが、「暴言」と「唾吐き」に〇印を記入し たため、「よくできました」と賞賛を与えた。訓練者は、「今からでも遅くないので、文字カードを使いません か?」と促した。対象児は、「おはようございます」カー ドと「すみません」カードを提示する適切な行動が生起 したので、「よくできたね」と賞賛し、加えてチェック リストの合計が 7 点になったため、結果のフィードバックを与えた。

 すごいな、と思うのは(当たり前なのかもしれないけれど)「暴言」と「唾吐き」はとがめず、それを記録することを促し、記録できたら「よくできました」と褒めるという対応。

 で、その後の経過も詳しく書かれています。是非元の論文をお読みください。単に問題行動が減っただけでなく、良いコミュニケーション行動を身につけていってるな、と思われました。

Fig.3 「文字カード」を用いた代替え行動

代替行動.png

 「おはようございます」とか「すみません」とか「ありがとうございます」とか、しゃべることのできる子なら簡単にできそうなのに、今までできなかったのか。それとも、カードを提示するというのが新鮮で面白かったからできたのか、そのあたりはよくわからないわけですが、より簡単に行動に表せたようです。


Fig.4 問題行動の推移

代替行動.png

 見事に減っていってますね。

 で、ここで私が学んだことは

◯字も読め文も理解できる、暴言できるほど口が達者な子でも、改めてカードコミュニケーションを適切に使うことで良いコミュニケーションが改めて身につくことがある

◯音声言語のみを使っていると、良いコミュニケーションを身につけてもらおうと思っても難しいことがあるのではないか(簡便性の意味で。カードなんか使うより、音声を使ったほうが簡単なはず。しかしそれだと良いコミュニケーション行動を発言しにくい場合があるのではないか)

というあたりかな。しかし・・・ということは

「暴言できるほど口が達者な子」は「音声言語が理解できている」と言っていいのだろうか?

 対象のお子さんの様子のところの

5.コミュニケーション面では、音声や文字による指示理解や意思伝達はできるが、嫌悪場面でのあいさつや会話など、他者に対する適切なコミュニケーション行動は困難

は「指示理解や意思伝達ができる」と書いていいものなのだろうか、というのはいつも感じるところです。

 そして私も口が達者な子とカードコミュニケーションをしようとしたら、「うちの子しゃべれるのに、そんなもの使うな」と言われたことは結構あります・・・

 なお、7月27日と30日に、対象児は、来所するなり「家に帰るから、止めるな!」と言っているの、「言い方」が暴言なのかな?帰りたい!!という意思の表明かもしれないと思い、私等は気持ちがグラグラしてしまうと思う。でももちろん、家に帰ることはできないだろうし、なので私も何とか居てもらうようにするけれど。

 結果的には放課後等デイサービスが居心地の良い場所になったようで、このケースでは良かったのですが。

 また、そのまま外に行き、5分後に戻って来た、という記述があるのだけど、その時、著者やスタッフはどうしていたんだろう?めちゃ怖い事態なのだけど・・・

 それとも「戻って来る」という確信があったのだろうか。

 なお、著者は「PECS が適当だと判断した」と書いておられる。しかし、様々な視覚支援物(ツール)を使っておられるけど、これを PECS と言っていいものかどうか。PECS の考え方を応用しておられるのは確かだけど、私ならこれを少なくともPECSR(商標登録されている PECS という意味です。商標登録のRがこのブログではうまく出ないかもしれない)とは呼ばないな。といっても、著者の実践を否定しているわけではなく、本当のところ現場ではこんなふうにやるしか無いし、それで良き結果を出しておられるのがすごいと思うのですけどね。

参考文献で読んでみたいもの
posted by kingstone at 22:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 特別支援教育や関わり方など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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