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2024年01月11日

「応用行動分析学に基づいた専門的指導技法の適用例について」竹内康二を読む



「応用行動分析学に基づいた専門的指導技法の適用例について」

 竹内康二(2023)『発達障害研究』Vol.45, 3, ,184-192


1. はじめに

専門的指導技法は、個別の事例研究による検討を経て適用方法の大枠としてのガイドラインが作成され。モデル化されることで汎用性が確立され。多くの現場で用いられることになる.


 医療だとこういう「ガイドライン」が多くの場合作られている。けれど、応用行動分析の場合、作られているんだろうか?例えば最近話題になった「強度行動障害に関する支援ガイドライン」ができたのは知っているけれど、他にもいっぱいあるのだろうか?

(ガイドラインでは無いけれど「「体罰」に反対する声明」は出ている。これもガイドライン的ではある)

 また初学者が陥りやすい「技法を学んだら、学んだ形のまま何も考えず適用しようとする」危険を避けるための注意書きになると思うが、こう書かれている。

発達障害児者への支援は個に応じた目標や手続きによってなされることが原則であるため、専門的指導技法もまた個に応じたカスタマイズが必要となる。つまり、支援を受ける人の数だけ微調整された技法が存在する。

 つまり「支援の個別性」のことだけど、次の TEACCH に関する文でも強調されているところだな。
 これはよくわかる。しかし微調整するのは初学者には難しいことであるけれど。

II. 見本合わせ課題

「見本合わせ課題」というのは例えば



の中で、「うさぎ」という文字カードと、「うさぎ」と「ひつじ」の絵カードを提示し、文字と絵をマッチングさせてもらっているようなの。

スクリーンショット 2024-01-11 17.40.19.png
(これ、封筒を切った部分が残りすぎて字が全部見えず「うなぎ」に見えるな(汗)指導の直前にぱぱっと作ったもんで・・・)

これは応用行動分析とは言わずとも、よく学習で使われている方法です。しかしちゃんとやろうとすれば

@イスに座って机上の課題を見る
A適切に順番や位置を計画する
B即時強化
C記録

などの専門的な知識・技術が必要で、OJT や OFF-JT でそれらを身につける必要があると。

(まあ、私の場合だと、「知識の伝達・獲得・使用」よりも、「その時間を本人と支援者が楽しく充実して過ごす」を一番に考えているので、場合によっては@は必要なくて、Cもそれほどではなく、みたいに考えているけれど、それは「応用編」なのかもしれない。う〜〜ん、しかし「知識の伝達」とかその効果をまじめにねらうとお互い苦しむだけの場合が多くなるのじゃないか、という気はするなあ・・・しかしこの論文であえて「技法」について書いているのは、この特集が「特に若い実践者が、専門的指導技法を学ぶ機会となり」というこの特集のテーマの縛りによってわざわざそちらの方向に書いてはるのかも)

 なお、ここに書かれていた、インスタ等で「いいね」を押すことで選んだかどうかを知る、という形の授業は「使える!」と思いました。

III. 動画の活用

Charlop-Christy et al は対面による指導よりもビデオ映像を用いた視覚的な介入の方が ASD 児者の行動獲得を促すことができることを示した。
Charlop-Christy. M. H.. Le, L. & Freeman, K. A. (2000) : A comparison of video modeling with in vivo modeling for teaching children with autism. Journal of Autism and Developmental Disorders, 30 (6). 537-552.


 これ、ASD 児者に限らないような気はする。また行動獲得まで行くかどうかは別として、対面でこちらが指導するよりも、画面のほうがより注目してくれることは、肢体不自由養護学校でも多く経験した。

 ビデオを使った介入は、難しげに言うと VBI(Video Behavior Instraction とでも言うのかな?)と言うらしい。その中に以下のようなのが含まれる。

@ビデオフィードバック(VF)
VFは、対象児者自身の一連の行動(適応的な行動もしくは不適応的な行動またはその両方)を撮影したビデオを作成し、対象児者がそのビデオ映像全体を観察した後、フィードバックを受けて自己の行動が適切であったか否かを評価することを求める手続きである。

Aビデオプロンプト(VP)
VPとは一連の標的行動を実行するモデルやタスクを客観的視点または主観的視点から撮影したビデオを作成し、そのビデオを個々の行動ステップに細分化(課題分析)する、または行動ステップ間に休止を挿入して提示する手続きである.

B代理的自己モニタリング
ビデオを用いた自己モニタリングは、自身の行動が記録されるビデオを視聴し,自身の行動について評価を行う手続きであり、不適切行動が減少し適応行動が増加したと報告する研究が数多くある。

う〜〜む。私には@とBの違いがよくわからない。また@とBはかなり知的に高い児童・生徒にしか適応しないような気がするが、重度知的障害の方に適応した例があるとのこと。(榎本拓哉・竹内康二(2014):重度知的障害児へのビデオフィードバックを用いた行動支援:自由遊び場面での不適切行動の修正から、明星大学心理学研究紀要,32,19-23.)あれ?この論文ではBのところで出てきたけれど表題に「ビデオフィードバック」と書いてあるな。

 しかし、1つ思うのは、このビデオフィードバックは、特別支援学校や特別支援学級の教師が適切な指導法を身につけるためにこそ、非常に有効な方法だと思う。

 またAは、タブレット端末の実践例でよく出てくるのだけれど、手軽さから言うと、1枚ものやめくり式の手順書のほうが良い場合が多いのではないかと思ってしまう。もちろんタブレットだと注目してくれやすい、ということがあるのだけど、それ以前に視覚的支援をいろいろやっていたら、手軽に紙でできそうな気がするが。


IV. 絵カードの活用

 まず要求を伝える、質問に回答する手段の確保について語られ、 AACAugmentative and Alternative Communication : 補助代替コミュニケーション)について説明があり、その後 PECS の解説、また実際の現場での使用法(PECS とは言えないかも)が解説される。

知的障害が重度の方の場合は、単に絵カードを用意するだけでなく、本人の生活環境のなかで使いやすい工夫を施したコミュニケーションの方法を検討する必要があるだろう。このような本人中心の特別仕様を絵カードに行うのも現場で求められる専門的指導技法の1つであろう.

 PECS は「専門的指導技法」というのにふさわしい体系、技法の集積があると思うけれど「本人の生活環境のなかで使いやすい工夫を施したコミュニケーションの方法を検討する」というのはもっと一般的なことではないだろうか(というかそうなって欲しいという願いかな)

V. PBS の理解

応用行動分析学に基づいた行動問題へのアプローチとしてポジティブ行動支援(Positive Behavior Support : PBS) がある。PBSは、個人の行動レポートリーを拡大し個人の生活環境を再設計し、個人の生活の質を高めることで個人の問題行動を最小化するための応用科学である。

 たぶん「行動レポートリー」→「行動レパートリー」

 しかし、「行動問題へのアプローチ」という側面はありながらも、第1層の人たちへは、単に「良い行動が増える」「気分良くなる」「(その場の)心理的安全性が高まる」というものじゃないかな。もちろん「行動問題が起きにくくなる」という予防の意義は大きいのだけど。


 続いて、PBSの中の特に重要な技法として「機能的アセスメント」が紹介される。

 確かに「機能的アセスメント」は「専門的技法」に入るのかもしれない。
 その前段階(?)の ABC 分析だって、かなり慣れないと、役に立つ分析にならないし。その C の部分がどういう機能を果たしているかを分析するのが「機能的アセスメント」だろうし。

VI. 結びに

紹介した内容を俯瞰してみると、確かに発達障害児者の支援において専門性の高さは重要ではあるものの技法を使うこと自体を目的とすべきではないことが確認できたように思う。支援者は技法の意義を理解し、柔軟にその技法をカスタマイズすることが求められること、つまり個に応じた支援を探求することが専門的指導技法を用いる目的であるということである。

 はい。
 結局ここに行き着くのですよね。

社会実装が実現するために何が必要なのかを検討した研究は少ないため、今後の課題としたい。

 まじ、ここやな。
 で、そこに少しでも爪痕を残したいのだけど。










posted by kingstone at 18:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 特別支援教育や関わり方など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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