アメリカの教室に入ってみた
赤木和重著
著者は神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授
シラキュース大学で在外研究のおりに、家族で渡米し、お子さんが現地の公立学校に入ることになり、はからずも関与観察することになった話。またその後、お子さんは私立のオルタナティブスクールにも通われた。
「はじめに」で3つのことを伝えると。
1.貧困地区の公立学校の様子の紹介。(崩壊と言うにふさわしい)
2.日本とは異なるインクルーシブ教育の様子を伝える。
3.新しいインクルーシブ教育を展開している私立学校の様子を伝える。
シラキュースはニューヨーク州にあり、ニューヨーク市から北東。
2014年全米1雪が降った都市
シラキュース大学は有名
しかし2013年のアメリカ国勢調査では全米で23位の貧困都市
全人口の33.2%(1/3)が家庭の年収3500ドル(約250万円)以下
シラキュース在住の黒人やヒスパニックが貧困地区に住む率は黒人の65%、ヒスパニックの62%。
この割合はデトロイトより多い。
「アメリカで貧しく、かつもっとも分離・排除が進んだ街の一つ」
ニューヨーク州統一テストの目標に到達した児童の割合は
小学校4年の算数では14%
国語では9%
2015年4月、ニューヨーク州教育委員会から、シラキュース市の公立学校34校中、18校が School Receivership(教育長による管理)に選定された。
(つまり教育困難校ってことやわな)
1年もしくは2年以内に学力の向上が見られなければ、州に教育委員会から強権的にカリキュラム改善を求められ、それでも成果がなければ「おとりつぶし」になる。
(ってそれじゃ子どもはどうすりゃええねん)
市ではなんとかしようと、8時から16時まで(日本の幼稚園年中さんクラスから!)授業をしている・・・
(頑張らせて、頑張らせて、教師も児童も疲弊していく、という悪循環に入ってるよな・・・またそういう学校に優秀な教師は来ず、新米とかがやってくるという・・・。そして優秀な教師は私立学校などに行く。少なくとも、この点では私の知っている日本の公立小・中学校では、一番優秀と見られる教師が教育困難校に配置されていた。)
(なお、私が過去に読んだり見たりしたアメリカの公立学校の様子は、こんな感じですが・・・)
(このプレゼンの中でビル・ゲイツは「私の提案するようにすればアジアの学校のように中退率を下げられる」と言っています。つまりアメリカでは中退率が非常に高いということ)
(これは1999年のコロンバイン高校の射殺事件の犯人である高校生の親御さんが書いたもの。そしてこの後、アメリカの学校ではいろいろな対策が取られるようになったと思われる。)
で・・・著者によると学校は「安全」であると。
「警備が厳格だから」学校に警備員や場合によっては警官が配置されており、子どもが問題を起こすとすぐにやって来て子どもを別室に連れて行く。
で・・・その部屋を「Time out room」と呼ぶのだが・・・
(たぶんそれタイムアウトになってない・・・)
しかし「安心」ではない、と。
(わかります)
また子どもたちの間を教師がとりもつというような雰囲気もない。
授業開始時刻は決まっているが、ダラダラと遅刻が続き、親もそれをべつだん悪いこととも思っていない。
基本的に他の子がどうであろうと(自分に被害が及ばなければ)関心は示さない。(別にええやん、という意味では楽なのだが)基本的に協調しない。
授業もちょっと押しの弱い教師がくると、クラス中に物が飛び交い、授業が成立しない。
(そのあたり、つまり「安心ではない」状態)
また特別支援学級はないのだが・・・ようするにダンピングをインクルーシブ教育と称している。
チャータースクールは「公設民営」
できた経過は
「公立学校では組合が強く、能力の低い教員がいつまでものさばっている。そのため子どもたちの成績が上がらない」
「同じような教育ばかりで個性がない」
「民間の競争原理を取り入れよう。保護者が学校を選択できるようにし、学校同士を自由に競争させれば、結果としてみんながハッピーになるんだよ」
という政治家や世論によって。
しかしある建物の中には公立小学校1つと公立中学校とチャータースクールの中学校と3つの学校が入っており、しかし公立小学校は人数が少ないので音楽室や運動場が使えなかったりする。
またチャータースクールが成績がいい場合もあるのだが、実は子どもによって(障害がある場合も)いろいろ難癖をつけて退学や入学させないようなこともあるとのこと。
(このあたり、「表」の報道には出てこず「裏」の情報で初めてわかったりすることあるよな・・・日本でも)
なお、頑張っている学校もあるとのこと。
この学校はトランスファー・ハイスクールというカテゴリ。
高校を中退した生徒を対象とする。
ってことは・・・日本の多部制高校のある部分と重なるのかな。
中にはかなり専門性の高い保育所が設置されている。
これは出産した高校生の学業を保障するため。
特にラティーノの文化では若い時に出産することが多いので、その文化を認めようという意味もある。
シラキュースのオルタナティブスクール(とは名乗っていないそうだが)である
全校生徒約30人
こちらを見るとスタッフは5人かな
著者が書かれているのは、
校長1
正規教員3
補助教員1
学生ボランティアが時間帯によって1〜2名
学費は年間約100万円
入学動機としては6割の子が公立学校で不適応を起こしたから。
それぞれの子どもひとりひとりに計画をたて、授業を組んで行く。
その中でいろいろなグループの授業が行われる。
著者のお子さんの場合、日本人で折り紙が得意だから、ということで「友達に折り紙を教える」という授業が組まれたりもする。
障害を持ったお子さんも自然に(もちろん職員の配慮の上で)とけこんでいる。
この学校で著者のお子さんはすごく安心されたみたいだし、著者は「楽ちんな雰囲気」と書かれておられる。
「楽」とか「楽しい」って大事やなあ。