これ、ネットで読んで、なるほど、と思ったものなのだけど、その記事がどこかは忘れてしまった・・・
中井久夫『「つながり」の精神病理』(ちくま学芸文庫)よりだそうです。
●精神健康の基準について
健常者ということばがよく使われているが、実際にはそういう者を定義することはできない。(精神健康の定義は)精神健康をあやうくするようなことに対する耐性として定義するのがよいのではないだろうか。
1.分裂する能力、そして分裂にある程度耐えうる能力
「人格は対人関係の数だけある」という考え方。
「あらゆる人間関係に対し統一された人格がある」者の
精神健康のほうが危ういのではないか、という指摘。
2.両義性(多義性)に耐える能力
父であり、夫であり、社員であり、挫折者であり、
保護者であり、掟であり、壁であり ――
3.二重拘束への耐性
「恋人を愛している」
「恋人からの電話をはやく切って眠りたい」
4.可逆的に退行できる能力
赤ん坊をあやす母親、
動物に子供っぽく声をかける成人男性
(統一、成熟、人格的・常識的な「私」が)
出ずっぱりでは人は持たない。
かつ、退行した精神状態からすぐに戻れること ――
5.問題を局地化できる能力
「私はどうしてこの職業を選んだか」
「この伴侶と家庭を作ることになったか」
―― 一般的に必要充分の理由なんかない。
問題を一般化すれば、形は堂々としたもの
にはなるが解決は遠のく。
特に自分に関する問題では ――
6.即座に解決を求めないでおれる能力、未解決のまま保持できる能力
葛藤があることはすぐに精神健康の悪さに
繋がらないどころか、ある程度の葛藤や矛盾、
いや失意さえも人を生かすことがある ――
「迂回能力」、「待機能力」とも深い関連がある。
7.いやなことができる能力、不快にある程度耐える能力
「後回しにする能力」、
「できたらやめておきたいと思う能力」、
「ある程度で切り上げる能力」
も関連能力として大事 ――
8.一人でいられる能力
「二人でいられる能力」も付け加えたい。
9.秘密を話さないで持ちこたえる能力
「嘘をつく能力」も関連している。
(嘘をつかないではいられないとしたら、
それは“びょーき”だが)
10.いい加減で手を打つ能力
これは複合能力で「意地にならない能力」とか
「いろいろな角度からものを見る能力」、
特に相手から見るとものがどう見えるかという
仮説を立てる能力 ―― 「相手の身になる能力」 ――
が関連している。
「若干の欲求不満に耐える能力」も関わりがある。
11.しなければならないという気持ちに対抗できる能力
12.現実対処の方法を複数持ち合せていること
13.徴候性へのある程度の感受性を持つ能力
身体感覚、特に「疲労感、余裕感、あせり感、
季節感、その他の一般感覚の感受性」を持つことと
同じ。それらは徴候として現れるからである。
すべての能力は人間においては対人関係化するので、
対人関係を読む能力は徴候性を感受する能力と関係して
いる。
「いま、相手が親密性を求めているかいないかが分かる」こと ――
14.予感や余韻を感受する能力
この世界を味わいのあるものにする上で重要な能力。
たとえば芸術作品の受容・体感がこの能力を育み、
野生の馬である「徴候性」と折り合いをつけられる
ようになっていく。
15.現実処理能力を使い切らない能力
あるいは「使い切らすように人にしむけない能力」。