「日本の医者」中井久夫著
2010年9月15日初版
入院中のベッドの上に放り出してたら看護師さんが題名と付箋だらけの様子に
「何かむつかしそうな本を読んでおられますね。私達がどきっとするような」
とおっしゃったので大笑いして「いやあ昔の本ですよ」と答えたのだけど・・・確かに題だけ見るとそうだよな。でももともとは1963年頃書かれたので、今とは随分状況は違っています。だから怖くない(?)やっぱりどきっとする本か・・・
なお、中井久夫さんのお名前はご存知ないようでした。まあ内科だしね。
大きく分けて4部に分かれています。もともとは昔、楡林達夫のペンネームで書かれたもの。ペンネームで書いたのにはわけがあり、しかしあとがきによればすぐにばれちゃったみたいですが。そりゃこの特徴ある文体だもんなあ・・・
それぞれの題と初出を上げれば
第1部「日本の医者」三一新書(「日本の医者」楡林達夫・小山仁示編 担当箇所抜粋 1963年より)
第2部「抵抗的医師とは何か」(「抵抗的医師とは何かー新入局者への手紙 あわせてほかの僚友たちへ」岡山大学医学部自治会刊行 全文 1963〜64年頃)
(これは各地で読み継がれ、現在ネットでも全文が読めるようになっている)
第3部「病気と人間」(「病気と人間ー医学・医療の社会的背景」楡林達夫・小山仁示・金谷嘉郎共著 担当箇所抜粋 1966年より)
第4部楡林達夫『日本の医者』などへの解説とあとがき
1963〜64年頃というのは、先日見た映画「乱れる」や「妻として女として」の時代で、「妻・・・」の中の森雅之が演じた大学講師は教授かと思うくらい権威ありげで、また裕福な感じがありました。
なお北杜夫の「楡家の人々」の「楡」と「林達夫」をくっつけたのかと思ってたら、「楡家の人々」が出るより前だそうです。
中井さんは元神戸大学教授だし、有名だし、めちゃお仕事もされてるし、お医者様としてのエリートコースを順調に歩んで来られたのかと思ってました。京大→阪大→京大ウィルス研→感染研→東大分院→名古屋大→神戸大だし・・・しかし昔の医学会の中の人が見れば???なコースではあるのでしょうね。
だいたい医学部に行ったのが、もともと法学部に入ってたのに結核で半年休学したから。
京大から阪大に移ったのはバイト先の眼科診療所の組合の委員長になってしまい「戦って、勝ち取って」で、ほとぼりをさますため・・・
阪大からウィルス研に入ったのはどうにも京大医局に入る気がしなかったため・・・
そしてウィルス研から出たのは・・・
たまたま、私のすぐ前で、教授が私の指導者で十年先輩の助手を連続殴打するということがあった。教授の後ろにいた私はとっさに教授を羽交い締めした。身体が動いてから追いかけて「俺がこれを見過ごしたら一生自分を卑劣漢だと思うだろうな」という考えがやってきて、さらに「殿、ご乱心」「とんだ松の廊下よ」と状況をユーモラスなものにみるゆとりが出たころ、教授の力が抜けて「ナカイ、わかった、わかった、もうしないから放せ」という声が聞こえた。
これだけのことであるが、しかし、ただでは済まないであろう。その夜、私はクラブの部室を開けて、研究者全員を集め、「今までもこういうことがなかったか」と詰問した。「あったけど、問題にしようとすると本人たちがやめてくれというんだ」「私は決してそうはいわない」ということで、けっきょく教授が謝罪し、講座制が一時撤廃され、研究員全員より成る研究員会による所長公選というところまで行った。これはまたしてもジャーナリズムに出さないということで成功した。札幌医大から来た富山さんと私と二人で、5階建ての新ウィルス研究所棟の部屋割りを3時間でやり遂げたまではよかったのだが、そのうち、若い者たちが所内の人事を左右するような議論が横行するようになった。私は、革命の後の権力のもてあそびは、こんな小さな改革でも起こるのだな、とぞっとして、東大伝染病研究所の流動研究員となって、東京に去ることにした。
でその後「日本の医者」を出し、東大伝染病研究所の上司ににらまれます。そして友人の自殺を契機に「抵抗的医師・・・」を書き、上司から自己批判(!?)を迫られ拒否し、研究所にいられなくなり、あちこちで働き、縁あって東大分院に行かれます。
「俺がこれを見過ごしたら一生自分を卑劣漢だと思うだろうな」
まあそういう意味では、私は既に卑劣漢だな。
抵抗的医師とは何か■新入局者への手紙 あわせてほかの僚友たちへ■ 楡 林 達 夫
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ラベル:医者 研修 組織