「楕円の思考」文芸評論家 加藤典洋
釜石が教えてくれたこと
津波避難とラグビー
「絆」を「信頼」で補強する
岩手の「津波てんでんこ」の話から。これ東日本大震災で有名になった「津波が来たら、取るものもとりあえず、肉親にも構わず、各自てんでんばらばらに高台に逃げろ」という意味の言葉です。で、そこから元日本代表監督の平尾誠二さんが述べられた言葉から論を展開されます。
日本ではチームワークというと、みんな念頭におくのが野球だが、ラグビーやサッカーのような「ゴール追求型スポーツ」では、違うチームワークの考え方をしないと勝てない。野球は「ピラミッド型あるいはコントロール型の組織」で「上位下達の世界」だが、ラグビーでは、ゲームの核心はボールを手にする側が代わった際の「ターンオーバー」にある。
「攻守の入れ替わりが不規則に、しかも速く、激しく、今、攻めていたと思ったら、次の瞬間には守らなければいけない」。そこで「攻守の切り替え」が全員の意志が共有される形で瞬時に起こらなければ、負けてしまう。「上位下達」では絶対に勝てない。
先の片田先生(kingstone注・「津波てんでんこ」についてクローズアップ現代で語った群馬大学大学院教授)は児童生徒にハザードマップを信頼するな、その時点での自分のベストを尽くせ、と教えた。平尾さんも、ラグビーでは「個人の能力をいかに高めるか」で、「モデル」には頼れないと、同じことを言う。大事なことは個人の「自発性」。「これからのコーチング、すなわち『人』作りにおいては、『個人』の自発性を促すのが大変重要なポイント」と強調する。
津波てんでんことラグビー。二人の話しが共に教えることは、ここにリスクがあり、一つの挑戦があること。それを子どもたちと選手が「一人の判断」で跳び越えている、ということだ。一人一人が、相手をもう「成熟した個人」なんだと「信頼」する。それがその「賭け」、跳ぶことの中身であす。
私は単なるラグビー好きで、自分でやったのは、高校の授業と、成人になってから社会人クラブで2試合、公式戦に出してもらったくらいしか経験はありません。
で、上のような言説は大好きだし、しかし実際はどうなのかなあ、と思っていました。だって、現代ラグビーって、めちゃめちゃサインプレーが多くて、それが「決まった」「決まらなかった」とか言うこと多いですから。つまりなんて言うか、フォワードキャプテンとかバックスキャプテンとか、あるいはラックからボールを出す時とかはスクラムハーフとかがある意味上位下達でサインを出してるんじゃないかな、と思ったのですね。
で、現在プレーしている人に聞いてみたら「サインは出すけど、出す人はその場その場でころころ変わる」と言うことでした。
なるほどなあ。そういうことやったんや。
もちろん自分でボールを持って走り出したら、もうその人はサインなんて出していられないから、自分で判断して突破していくしかないわけですよね。
「絆」 人権作文 崔玄祺(チェ ヒョンギ) 内閣総理大臣賞