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 あくまでも、私個人の意見です。

2011年07月18日

今この世界を生きているあなたのためのサイエンスI リチャード・ムラー著



 この本は日本語版は2010年9月21日に出版されています。著者はリチャード・ムラー(Richard A Muller)カリフォルニア大学バークレー校の物理学教授。マッカーサー・フェロー賞受賞。

 この本は大学での文科系学生を対象に行っている有名な講義をベースにしたもの。(元のには学生が考える問題とか他の資料とかいろいろついてるらしい)YouTubeでもいろいろな動画がある。

 なお私がええかげんにまとめているところが多いので、興味を持たれた方は、本に直にあたって下さい。

 まず911について「ビル崩壊の主原因は飛行機衝突ではなかった」という見出しから始まるので「うおっ、これはトンデモ陰謀論の本か??」と思ったら違いました。単に著者の主張は「衝突の衝撃」とかではなくジェット燃料のエネルギーである、というもの。なるほど。

 2章のテロリストと核兵器では「テロリストが小型核兵器を作ることは不可能(注・国家が注力すれば別)」と「汚染爆弾は作ったとしても効果が得られない」という2つの論点。

 1987年にブラジルのゴイアニアの廃品回収業者が放射線治療装置を見つけ解体した時、男性2人、女性1人、子ども1人が急性放射能中毒で死んだ。この装置には1400キュリーのセシウム137が入っていた。

kingstone注・キュリーは放射能に関する古い単位。現在はベクレルを使い、1キュリーは3.7ベクレル×10の10乗。ってことは1キュリーは370億ベクレルか。

 このセシウム線源から1m離れて立っていると1時間足らずの間に450レムの放射線を吸収する。

kingstone注・レムは放射線粒子の吸収線量。現在の国際単位系(SI)では使われない。1シーベルトは100レム。ってことは今よく聞く1mシーベルトは0.1レム。この450レムというのは4.5シーベルト、4500mシーベルト。

 この放射線量はセシウム137の「LD50(50%致死量)」を超えているため被爆から数ヶ月以内に50%の確率で死ぬ。

 しかし、多くの人を殺そうとして爆薬で1.6キロメートル四方にばらまくと、1平方ヤード(90cm×90cm)あたり0.5mキュリーになる。(1850万ベクレル)になる。その地域に1時間いた時の被曝線量は5mレム。(0.05mシーベルト)

 これだと「急性放射能中毒(障害)」は起こらない。(kingstone注・ただし著者は閾値がある、としていますが閾値があるのかないのかはよくわからない、というのが本当のところみたい)

 ただしガンにかかる危険は無いわけじゃない。

 発がんリスクは1レム(10mシーベルト)につき0.04%増大する。

 この仮定された「汚染爆弾」の地域で1年間生活した人がガンで死亡する可能性は、アメリカ人の「自然な原因」によるガン罹患率を20%と見積もると、20.16%となる。

 これが「避難」する判断基準と成り得るかどうか?著者は他のところでも「科学者が言えるのは事実とそれに基づいた予測」「避難指示をするかどうかは政治家の判断」と語っています。他のところで「政治家は科学者に判断を求める」みたいなことも書いてはります。確かにそれは無い物ねだりなのでしょう。


 こうったテロの手段としてはあまり有効で無かったものとして著者は次に「炭疽菌」によるバイオテロを上げます。

 2001年10月に起きた炭疽菌を封筒に入れたバイオテロによって5人の人が亡くなりました。しかし、実は1つの封筒の中には「2000万人分の致死量」の炭疽菌が入っていたそう。だから犯人はもっと多くの人を殺すつもりだったろうに「たった5人しか殺せなかった」ということらしいです。まあ、それでも十分に迷惑だし、あの時、アメリカでは郵便業務がストップしてしまいましたが。

 で、著者も今後は楽観できないと述べています。

 エネルギー問題について。聞いたことのあるものもあり、無いものもあり。

・ガソリンのエネルギーは、同量のTNTの15倍に相当する。
・石炭のコストは、同じエネルギー量当たりガソリンの1/20である。
・真昼に一平方キロ当たりに降り注ぐ太陽光から、1ギガワットの電力ーー石炭や電気や原子カの大規模発電所と同じ電カーを供給することができる。
・1平方メートル当たりの地表に降り注ぐ太陽光から、およそ1馬力のエネルギーが得られる。これは、アメリカの一世帯当たりの平均使用電力量に相当する。
・ガソリンのエネルギーは、同じ重量当たりで懐中電灯用の電池のI〇〇〇倍に相当し、高価なコンピユータ用バッテリーのI〇〇倍に相当する。
・未来の「水素経済」の主要燃料となる液体水素のエネルギーは、同じ体積当たりガソリンの1/4.5である。
・非充電式電池のエネルギーのコストは、壁コンセントのおよそ1万倍である。


 1馬力はほぼ1000W。(1KW) 

 ええっと、太陽光エネルギーについて、これはたぶん100%電気に変えられるとしたら、の話だと思います。他のところで書かれているのは現在普及している太陽電池だと効率は15%、ソーラーカーレースに使われる高価なもので30%。最も効率のいいもので41%。ただし、これは1インチ平方(コンパクトデジカメの液晶サイズだと思う)で65ドル(5000円くらい?)するそう。
 また普及品が15%と言っても、それは日中の話で、朝夕を含めると数%になってしまう。

 ガソリンとその他のエネルギー量比較。

・天然ガスは1.3倍
・水素ガスまたは液体水素は2.6倍
・ウランまたはプルトニウムの核分裂は200万倍
・水素核融合は600万倍
・反物質は20億倍


で、著者は最後の「反物質」は座興って書いてるけど、「核融合」も現時点では座興になると思うけど。なんせ時代が下るほど、「実用化できる」予定が遠くなるのだから。

 さまざまなエネルギーのキロワット時(ってことはアメリカ世帯の平均的な使用量ってこと??)

・石炭:0.4〜0.8セント(トン当たり40〜80ドル)
・天然ガス:3.4セント(1000万リットルあたり約3.5ドル)
・ガソリン:11セント(1リットルあたり98セント)
・自動車のバッテリー:21セント(交換用バッテリー100ドル)
・コンピューター用電池:4ドル(交換用電池100ドル)
・単4電池:1000ドル(電池1個あたり1.5ドル)


 コストがかなり違う。しかし我々が高くても使うのは便利さのため。また石炭は最悪の二酸化炭素排出源のひとつ。そこをクリアし、石炭より安い代替エネルギーができるかどうかが問題。

 ソーラーカーの実用化について。

 1平方メートルで1馬力が出せる。しかしコンパクトカーでも軽く50馬力。ソーラーカーの力で満足できるとは思えないので実現は不可能だろう。(最近、車のカタログで「馬力」ってないですよね。3000回転で70psたらなんたら。あのpsとかいうもんが馬力なのか?)

 家庭用太陽電池普及のカギ。

 現在アメリカで1kW使う家で太陽電池でまかなおうとするとコストが14000ドル。
 電気料金は1時間10セント。1年8760時間だから年間電気代は876ドル。これが節約できるとすると6.2%の利率(普通預金の利息よりも高い)の投資になる・・・が電池の寿命を考えないといけない。収支がとんとんになるためには22年の寿命が必要。

 石炭を液化する技術はすでにある。フィッシャー・トロプス法。第二次大戦中にナチスドイツでは行われ、またアパルトヘイトで経済封鎖された南アフリカでも行われた。しかしアメリカではコスト的にみ合わないのでされていない。

 原子力について

 人は、放射能に対して原始的ともいえる恐怖を抱いています。これは古いユング心理学でいう原型の新しい例かもしれません。

 おお、ユングが出てきたか(笑)

 受けた放射線量が100レム(1シーベルト。1000mシーベルト)だと、おそらく本人も被爆したことに気づかず、体のダメージの大部分は自己修復される。
 200レム(2シーベルト。2000mシーベルト)だと、病気になる。(「放射能中毒」または「放射線症」)ほとんどの髪の毛が抜け落ち、吐き気とだるさを感じる。
 200レムを超えると死亡する危険性も出てくる。
 300レムになると、輸血やそのほかの集中治療を受けない限り、死亡の確率50%。
 1000レムで助かるみこみはほとんどなし。

 あれ、この前に出てきたのと少し数字が違う・・・200レムでLD50と書いてあったが。

 1レムの被爆に必要なγ線はおよそ10兆のγ線。
 チェルノブイリの(たぶん死んだ)消防士が浴びたのはその数百倍。(ってことは500レムとかそういうことか)

 平均的なアメリカ人の自然放射線に寄る被爆は年間約0.2レム。(2mシーベルトだな)

 チェルノブイリの場合。
 1個の原子核は1度しか爆発(と原文にはあるけど「崩壊」と言ったほうがイメージに近いんじゃないかな)から、15分後には放射能は1/4、1日後には1/15、3か月後には1%以下に減った。しかし今でも多少の放射能は残っている。発電所付近の3万人の住民が被爆した放射線量は平均45レム。(450mシーベルト)被爆者がガンになる確率は1.8%増える。通常でガンで死ぬ確率は20%あるので、21.8%が被爆者の発ガン率。3万人の被爆者のうち、6000人が自然の原因でガンにかかり、さらに約500人が放射線のためにガンになる計算になる。(まあ500人も少ないとは言えないが・・・1学年2〜3クラスある小学校の全員が消えてしまうことになる・・・って気づいたけど、「ガンになる確率」と「ガンで死ぬ確率」とは違うものだと思うけど、そこんとこどうなっているんだろう?)

 チェルノブイリから住民を避難させたのは正しかったのか?

 この回答は科学の問題ではない。

 IAEAが総被爆線量の最良推定値として約1000万レムという数字を発表した。これによる推定誘発ガンの死者総数は4000人となり、先の計算の500人よりかなり多くなる。

 明らかにチェルノブイリの事故のせいとわかるガンは「甲状腺ガン」チェルノブイリ地域で発見された十数人の甲状腺ガン患者は明らかに事故のせいであるだろう。しかし他のガンの場合、事故のせいかどうか見分けるのはたいへん難しい。難しいとしても危惧すべきなのではあるが。

 ここは著者の推測(「かもしれません」と書いてある)だが、チェルノブイリの住民がかかっている多くの疾患の二つは「大量の喫煙や飲酒によるガンと心臓病」これは避難によるストレスや、そのための薬物乱用があるのではないか、とのこと。これは考えうるなあ。経済的にもズタボロにされただろうし。

 放射性ヨウ素(ヨウ素131)の半減期は8日間。だから放射性物質の降下が問題になる時、何ヶ月も前ならヨウ素剤を飲む効果は無い。

 アレクサンドル・リトビネンコ暗殺に使われたポロニウム210は半減期100日。これは放射線が強く出る期間がそこそこ長く、かつ飲ませるのに量が少なくてすむ(放射線量が強いから)という両方をてんびんにかけた時、使い勝手が良かったからと思われる。(半減期が長ければ同じ時間あたりに出てくる放射線量は少なくなる)

 放射能による突然変異について。

 高等動物(哺乳類・爬虫類・魚類など)では放射能による突然変異が起きたという例は、まだ一つもない。全米アカデミーの2006年の報告によれば広島・長崎の被爆者の子どもには、先天性欠損症の目立った増加は見られない。(これ、イラクなどで劣化ウラン弾による先天性欠損の例が報道されることがあるが、どんなもんなんだろう。劣化ウラン弾に関わりなく一定数は生まれるってことか?)

 ただし有害な突然変異が起こらないといわけではなく、胎児の場合、同じ1レム(10mシーベルト)あたり成人の75倍の危険がある。

 2003年に公開された「チェルノブイリ・ハート」ではチェルノブイリ地域で多く見られる先天性欠損症を、原発事故の放射能によるものだ、としているが、この地域に以前から多く見られる症例である。

 スリーマイル島の原子力発電所の事故後、近隣住民の多くがガイガーカウンターを購入して付近一帯の放射能を測定した。その結果全体的に見て、全国(全米ってことやろな)平均より30%高いことがわかった。しかし・・・この地域の土地にはウランが含まれており、それが崩壊すると放射性ラドンガスに変わる。スリーマイル島の近辺の住民5万人に対し、この自然放射能による過剰死亡者数は60人になる。


他の書評
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R.A. Muller [ムラー] (2008 / 2010) 今この世界を生きているあなたのためのサイエンス

posted by kingstone at 15:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 本・記事・番組など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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