この動画以前のことを書いておきます。A君を指導していた超ベテランさんはこのようにしていました。
「怖い(と超ベテランさんが思っている)顔」
「威嚇(と超ベテランさんが思ってる)声」
指差しをつけて「モップ!」と言う。
そしてA君の前に立ち「怖い顔」「怖い声」「指差し」で「ここ!」とモップをかける場所を指示し続ける。
そして終わると我々に向かって「ほんまこいつはさぼりでなまけや。監視し続けとかな、やりよらん」と言う。
これはたぶんこういうことだと思います。
「怖い(と超ベテランさんが思っている)顔」は笑顔よりも情報量が少なく、A君にわかりやすかった。で、別に「怖い」顔でなくても「普通の顔」で十分だったろう。
「威嚇(と超ベテランさんが思ってる)声」で「モップ!」と言う。
これは声量の大きさは別として「短く」「具体的」な音声だったからA君にはわかりやすかっただろう。別に「大きさ」「鋭さ」は必要なかったんじゃないかな、と思いますが。
「指差しをつけて」指さされているところが見えるからわかりやすい。
私は超ベテランさんの解釈は「ちゃうやろなあ」と思いながらも、どうしたらいいかはわからず。そしてこの動画のように取り組み始めました。
動画前半は1997年6月5日9時頃。いろいろな視覚的な手がかりを使っています。左側のめくり式はC君にわかりやすかな、と思って作ってみました。また右側の1枚の画用紙に上から下に掃除の手順を書いたものはA君にわかりやすいかな、と思って作ってみました。しかしA君はめくり式のほうに関心を向けることもしばしばです。
またA君C君とも、たくさんの声かけ、指差しが必要です。
まだTEACCHの本を1冊読んだくらいの頃です。まともなスケジュールにも自立課題学習にも取り組んでいない頃です。
結局、この1997年6月5日の方法では「うまくいっていない」と言ってもいいと思います。
次は1999年の1月28日に、モップかけや台ふきなどにどんな視覚支援を使っていたかがわかる動画です。残念ながら実際に掃除をしている場面はありません。私の記憶では「ほとんど声かけや指差しは必要なくなった」はずです。
先に映るのはC君用に写真を使って手順を示したもの。次に映るのはA君用に名刺サイズのカードに文字ですることを書き、順番に並べて手順を示したもの。どちらも最後にゴールドカード(この時は「教室に帰ってね」の意味を伝えるために使っていた)が用意されています。
また台ふきを絞るところ、モップをかける時に「ここだよ」とわかる絵や写真があるのもわかります。
と言ってもくまなく完璧に掃除ができるようになったわけではありません。そのあたりは私もたいへんええかげんなので。でもA君C君が決して「さぼり」でもなく「なまけ」でもなく「やることが伝わっていなかったのだ」は本当に実感できました。
その後、ある自閉症児に関する授業の全国的な実践研究会で、ある地域の特別支援学級の先生が発表するのを見たことがあります。生活全般が他の児童(健常?定型発達?)のお子さんの音声や指差しの指示で動いていました。トイレ掃除も、友達の指示に従って掃除をしていました。つまりその先生を指導する教育委員会の人も周囲の同僚たちもそれが「いい実践」だと思っているからこそ発表したものと思います。
指導助言の先生は、まず「たいへんいい実践だったと思います」とかいろいろ褒めてから、最後に少しだけ「視覚的な手がかりでひとりでできることもやってみられたらどうかと思います」と言っておられました。私は「苦労してはるなあ」と思って聞いていました。すぐ側にいたその地域の特別支援教育でリーダー的な立場にある先生が指導助言の講師の話を聞いて、声を荒らげて「地域には地域の事情がある!」と怒っていたのが印象的でした。どんな事情があるんだろう・・・??
でも講師の先生、本当に遠慮深く言いはったのだけどね。