※このブログに書いていることは、私の関わりある法人の意見ではなく、
 あくまでも、私個人の意見です。

2011年02月17日

自閉症とダウン症の合併する例について

 Twitterで自閉症とダウン症の合併のことについて話をしていたら kuni3344 さんが「自閉症と発達障害研究の進歩 1997/Vol.1」(日本文化科学社)を送ってあげよう、という話になり、昨日の今日でもう到着しました。

 1.5kgはありそうな立派な本です。

 この中の1995年の重要論文の

17 ダウン症児に見られる自閉症:その診断と病理について

から引用。論文著者は

P.Howlin L.Wing and J.Gould

Translated and summarized from "Howlin, P.,Wing,L. & Gould,J.(1995).The recognition of autism in children with Down syndrome-lmplication for intervention and some speculations about pathol-
ogy. Developmental Medicine and Child Neurology, 37, 406-414 " with the kind permission of Mac Keith Press.
Copyrightsd1995 Mac Keith Press.

要旨と解説(高木隆郎)
「Kanner が早期幼自閉症を初めて記載した当時(1943ー)は、脳器質性疾患は除外されることが当然と思われていたが、やがて脳波異常例が少なくないと指摘されたり、また胎児性風疹症候群や結節硬化症など、明白な脳障害のケースに自閉症と診断せざるをえない子どもがかなり含まれていることを誰もが認めるようになった。
 一方、ダウン症が染色体異常であることがわかったのは1959年であるが、なお当分の間はこうした明白な染色体異常の疾病に自閉症と診断することはありえないことであった。
 私の知っている限り7歳のダウン症男子(ことに重度の知的障害を有するもの)に自閉症が合併している症例を最初に発表したのは、わが国の若林慎一郎(1979)である。」

「本論の症例報告は4例」

 本論はいろいろな行動特徴から自閉症と診断するに至ったことが書かれています。

診断の失敗が意味するもの

「子どもがダウン症であるという事実をまず認めたうえで,さらに親たちは,子どもたちのダウン症の仲間と比べたときでさえも,自分たちの子どもの発達は異常であるという認識を受け入れざるをえなかった。親たちは何度も子どもたちの発達に不安を示したが,このことは,すべてダウン症なら予想できることであると一蹴されることが多かった。たとえば,D児の両親は,数年前に彼が自閉症であるかもしれないと述べているが,学校の記録をみると,教師たちはそんなことを考えることさえも不倫決であったようである。またB児にかかわっていた教育心理士は「彼を普通のダウン症児と考えることは彼にとって適切でないかもしれない」と述べ,彼のまわりの人や物に対する奇妙な間係のとり方や,順序や決まりきったやり方を要求することについても言及しているが,彼の行動は学校では<いたずら>や,<わざとしているもの>と誤解されていた。」

 子どもに取って、そして保護者にとって、誤解されたままだと、つらいところですね。

「子どもの学習,行動,そして対人関係での障害の本質を理解するのに失敗したことは,
明らかに教育方法に悪い影響を与えていた。子どもたちには,個別の段階的な教授方法を含んだ高度に構造化された環境が必要であるといった認識がなされず,彼らには対人的な理解が欠けている,あるいはコミュニケーションの能力を発達させるために専門家の援助が必要であるという意識さえもなかったようである。」

病因に関する仮説

「自閉症あるいは自閉症スペクトラム障害の合併があるという発見は,ダウン症を外向的で社交的と見なす一般的な意見と対照的である。ダウン症児の大きな母集団における自閉症スペクトラム障害の有病率についての疫学的調査は発表されていないが,現在手に入る証拠では,その10%が自閉症であると示唆している。ロンドンのキャンバーウェル区の調査では,スペクトラム全体では13%で,KannerとEisenbergの基準を使うと(その基準では最も低い率にでる傾向だろう)典型的な自閉症は3%だけであった(Wing,1993)。この自閉症や自閉症スペクトラム障害についての研究でいわれている率は,もっとも高く見積もってもおよそ200人に1入という一般の人口に対する率よりも高い。これは,知的障害をもつ子どもにおける自閉症スペクトラム障害と(Wing&Gould,1979),そのほとんどがIQ70以上であるアスペルガー症候群の子どもたちも含んでいる(Ehlers&Gi11-berg,1993)。ダウン症児に対してもっと現実的な対照群となるのは,中等度,重度,最重度の知的障害児(IQ50未満)から成るグループであり,そのグループでの自閉症スペクトラム障害の率は一般人口での率よりかなり高い。キャンバーウェル区の調査では,IQ50以下でダウン症ではなく,運動機能に障害がない子どもたちの16%はKanner型の自閉症であり,57%が他の自閉症スペクトラム障害であった。それゆえダウン症児は,全人口の調査に基づいて予想される偶然の一致以上に,自閉症や他の自閉症スペクトラム障害をもつ率が高いようであるが,ダウン症以外の中等度,重度,最重度の知的障害児よりはこの障害をもつ率は低いようである。」

 つまりダウン症であり自閉症でもあるお子さんっているよね、一般の人口に対する比率よりは高いよね、ということですね。

 私が直接関わったことのある人で明らかにダウン症であり自閉症である(と言ったって診断書を見たわけではありません。顔と行動からそう判断しただけです)方は1名だけ。でも私が関わった方の母集団は小さいですから。また合併している方と関わっている人の話はちらほら聞きました。

 それから、この引用文の最後のところは、「中等度、重度、最重度の知的障害児」とされている人の中に自閉症の方が結構たくさん(ダウン症の場合より多く)いるということですね。

 私が現場にいた頃も、「あの子自閉症(でもある)やで」と言うと、よく勉強されたりした熱心な先生が「そんな馬鹿なことは無い。ただ知的な障害があるために自閉症みたいな行動をするだけだ」と「血相を変えて」反論されることがよくありましたが、やっぱり「自閉症(でもある)」と判断すべきやったんやろな、と思います。

 なんかね、自閉症が悪しきもの、みたいな扱いやったもんな。私は「良きもの」みたいに思ってしまう傾向があって、それも問題かもしれないけど、少なくとも「良くも悪くもなく」「ただそうであるだけ」のものやもんな。


posted by kingstone at 14:38| Comment(4) | TrackBack(0) | 特別支援教育や関わり方など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
とても興味深く読ませていただきました。
ダウン症児と自閉症児は共存することが多く、
支援の方法も違うのかなあとか、どう協調していけばいいんだろうなと
思ってはいましたね。

自閉症を悪しきものと考える傾向はありますね。
知的な障害はあるけど、自閉症かどうかはまだ判断したくないの、という
お母さんもいてます。
Posted by ともも軍曹 at 2011年02月17日 15:30
とももさん、どうもです。

この論文は「率も多いんじゃないの」というとこですね。

合併するかしないかについては、私は難聴ですが骨折することもある。合併しないと考える方がおかしいような気がします。(論理が飛び過ぎかな(笑))

で、現場にいた者としてはよく「自閉症専門学校」とかの必要が言われることがありますけど、ダウン症の人と自閉症の人が仲良くなることも結構あるし、そこらへんは分けなくてもいいんじゃないかな、って思うんですよね。一人一人よく見て適切な対応を取れば。ダウン症の人で自閉症みたいな行動をとる人がいれば視覚支援すればいいだけだし。

Posted by kingstone at 2011年02月17日 15:57
 ダウン症は染色体異常が原因であり,自閉症は原因は特定できないものの脳のいずれかの部位が関与していることはほぼ間違いがなく,当然合併する場合もあるでしょう。実際,一人ですがそうだろうなと思えるダウン症児を担当したことがあります。
 ただ,この論文が元なのか分かりませんがダウン症児のこだわりというか意固地というかまで「固執行動」ととらえて「ダウン症候群児は自閉症と近似している」なんて言う研究者がいるのはお笑いぐさです。そんなこと言い出したら,整理整頓好きはみんな自閉症になってしまいます。現在の自閉症研究者にはうさんくさいのが多すぎます。また,アスペと診断された人の犯罪がメディアで多く取り上げられるようになり(弁護士がそれを理由に免罪戦術をとるのが悪いのですが),自閉症関係から距離を置いたり逃げ出すチキン研究者も多いのが,自閉症児者にとっては不幸です。
Posted by もずらいと at 2011年02月17日 22:46
もずらいとさん、どうもです。

|当然合併する場合もあるでしょう

ですよね。

|ダウン症児のこだわりというか意固地というかまで「固執行動」ととらえて「ダウン症候群児は自閉症と近似している」

それは変な感じがします。

|弁護士がそれを理由に免罪戦術をとる

これねえ。私は「責任を取らせてもらえない」のは不幸な気がするんですよね。



Posted by kingstone at 2011年02月17日 22:56
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