※このブログに書いていることは、私の関わりある法人の意見ではなく、
 あくまでも、私個人の意見です。

2010年11月11日

GEEKS ギークス ― ビル・ゲイツの子供たち ジョン カッツ著

 大昔の感想文です。

GEEKS ギークス ― ビル・ゲイツの子供たち/ジョン カッツ

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 kingstoneです。

 ギークって「オタク」のことかと思っていましたが、もうちょっときつい(さげすみの意味を含んだ)言葉だそうです。畸人という感じで原義は「ニワトリの頭を食いちぎる人」みたいなのだとか。

 でもまあ要するにコンピュータオタクってことかな。それ以外に魔法愛好家なんかも入るみたい。結局のところ社交的であったり、プレッピーであったり、体育会的であったりする子とは違う、そしてその好みゆえに嘲られたり、いじめられたり、無視されたりする少数の人たちと考えればいいのかな。

 著者のジョン・カッツは現在メディア評論家なんだけど、まあもともとインターネットを擁護する立場で論陣を張っており、ギークと呼ばれる典型的な若者を記事にしようとジェシーという青年の取材に行くわけです。

 でまあ彼は、ほんま将来の夢なども無い、そしてコンピュータには強く、偽造IDなども作るある意味典型的な青年だったわけですが・・・

 カッツとの付き合いの中でジェシーはシカゴに出、より有利な仕事を見つけることができ、そしてついにはシカゴ大学に願書を出すまでになり、申込み期間が過ぎているにも関わらず、入学できてしまった、というビルドゥングス・ロマン(成長物語)というかサクセス・ストーリーなんだけど、その物語が成就しようとするその時、コロンバンの虐殺事件が起こります。

 もちろんあれはとんでもない事件なんだけど、それによってアメリカ全土にギークたちへのものすごいバッシングが始まりカッツの元にはそれによって魔女狩りのように攻撃される多くのギークたちからのメールが殺到します。(しかしそれが始まる前からギークたちは苛められていたのだけど)


(引用開始)
 もう既に恐ろしい話があちこちにある、とジェシーは報告してきた。トレンチコートや黒服を着ている子供たちが家に帰されたり、クェイクやドゥームで遊んでいる子供たちがカウンセリングを受けさせられたりしているという。

「もし今、僕が高校生だったらさ」とジェシーは口角泡を飛ばした。

「トレンチコートとフェードラ帽で学校に行ってやるさ。毎日着てってやる。奴らに吊されるまでやってやる。徹底的に戦ってやるぞ、威張り腐ったクソ野郎ども」

 しばらくすると、彼は落ち着きを取り戻した。

「誰も人を傷つけたいなんて思ってないよ」と彼は説明した。

「でもミドルトン(ジェシーの行ってた高校)に通ってた頃には、手近に銃がなくて良かったって思う時が何度もあった。毎日毎日、少しずつ少しずつ、神経を磨り潰されていくんだ。第一、一歩中に入ったら、憲法も権利もクソもないって学校がある。こう考えろ、どこへ座れ、何を着ろ。これは読んでもいい、これは読むな。こう考えろ。

 学校全体が、ギーク以外の奴らのためにできている−体育会系とプレッピー(金持ちのぼんぼん)どもさ。だからギークは誰からも相手にされない。四六時中あざけられ、恥をかかされ、押しのけられ、笑われる。授業は退屈だし、ほとんどの教師はギークが生きていようが死んでいようが気にしない。ギークはものを考えるし、奴らのことを論じるし、人と違うから憎まれる。絶対に−一度も−招かれることはない。高校はパーティーだのグループだの課外活動だのがわんさとある。でもギークはそこに入る鍵を持ってないし、招かれもしない。
 だから怒りや憎しみが起こる。少しずつ少しずつ、ギークは人間性を切り取られていく。ハムみたいにさ。憎しみはどんどん大きくなっていって、もう憎しみ以外なにも残らなくなる。話のできる親友や教師や親がいればいいけど、そうじゃなきゃ、ある日、人間性なんてかけらも残らなくなる。全身憎しみの塊さ。もう世界とは何の繋がりもなくなる。だからキレるのさ」

 この怒りは、常にジェシーの表面近くにある。今も。
 ジェシーを救ったのは、ギーク・クラブの仲間たちと、一人の理解ある教師と、コンピュータのスキルに対する自信と、話のできる母親や妹だった。
(引用終了)

 カッツは全米から押し寄せてくるうめきにも似たメールに対して協力者とオンライン・カウンセリング・サーヴィスを構築します。そしてジェシーにもそれらのメールを転送します。それに対してジェシーは

(引用開始)
「歯をくいしばれ、って言ってやってよ」とジェシーは言った。

「高校は地獄かもしれない。でも人生はその先にあるんだ。言ってやってよ、ネットの上では、僕たちギークはもう孤独じゃないんだって」
(引用終了)

 ネットワークおたくであり、障害児教育おたくである私は、もちろん私にわかる部分は少しではあるかもしれないけれど、共感しますです。

 そしてまた、たぶんギークの中にいるであろう多数の発達障害を持つ人たちのことを思います。(ビル・ゲイツや、その他の成功した人たち。そして逆にコロンバンの高校生や日本のバスジャック青年、豊川の殺人事件の少年、あるいはギークとは言えないかもしれないけど、レッサーパンダ帽の男)

本書の中にも「コロラドの発の記事を見れば既に明らかであるとおり、あの二人の若い犯人は、重度の情緒障害であった。すなわち、今日の私たちがまだほとんど理解していない種類の精神病患者である」とありますが、そうではなくて(あるいは一次障害として)発達障害があるのだろうと思います。

 発達障害について一定の理解をもった人が増えることを祈りたい気持ちになります。
posted by kingstone at 06:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 特別支援教育や関わり方など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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