自閉症児と絵カードでコミュニケーション―PECSとAAC/アンディ ボンディ
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著者はアンディ・ボンディさんとロリ・フロストさん。その他の方の寄稿文もあります。
抜き書きしたいところはいっぱいありますが、今日返さなくてはいけないので引用は少なく・・・
そらパパさんのブログの記事「自閉症児と絵カードでコミュニケーション」日本語訳修正案が完成しました。」から「修正案」のPDFファイルをダウンロードして、モニターで見ながらやってます。しかし・・・PDFを開きながらだと、ソフトの切り替え時にいちいちフリーズしたようになる。もうパソコンの能力いっぱいいっぱいなんですね・・・・修正案のあるものは修正の重要度A・Bのものについてはそちらを採用します。
PECSとは the Picture Exchange Communication System です。
絵カード交換式コミュニケーションシステムですね。
開発の動機が語られています。
「私(アンディ・ボンディ)はこの仕事に就いたころ、このような方法をとっていましたし、他の多くの人も同じようにやっていました。つまり、子どもの問題を観察し、その問題を解決するために『言葉を使う』よう促すのです。しかし、この方法をとっても、難しい状況では子どもは相変わらずかんしゃくを起こしたままのこともあり、また私に促された時だけ子どもは助けを求める、ということに気づきました。そして、子どもは私が教えたことを文字通りそのまま学習するのだと気づくには何年もかかりました。子どもの立場からこの場面を描写すると、次のようになるでしょう。a)おもちゃがうまく動かないと、私は大声で泣き始め、b)するとアンディがやってきて、私に何か言い、c)アンディに言われた通りに言うと、彼は私を助けてくれるのです。
ジーナが自分から助けを要求することを学習しなかったのは、どのような場面で自発的に助けを要求すべきかということを、私が彼女に教えてこなかったからでした。私がしていたことは、かんしゃくを起こせば助けを求めていることを私に気づいてもらえるということ、そしてその後で何か言葉を言うよう促すことだったのです。自分から助けを要求することを教えたいのであれば、彼女がかんしゃくを起こす前に助けを要求することを教えるべきだった、ということに私は気づいたのです。つまり、ジーナがかんしゃくを起こしているのを見たら、私はかんしゃくがやんだ後、助けを要求することを教えるべきだったのです。
一般にかんしゃくやその他の情動的な行動を起こしている最中に新しいスキルを教えるのは、きわめてむつかしいことです。」
おわかりになるでしょうか。
本人のかんしゃく→支援者が見る→支援者の音声言語→本人の音声言語→環境改善
つまり自発された行動はかんしゃくであり、環境改善にはかんしゃくが有効と教えてしまっているわけです。
これを
かんしゃくの前に『環境を変えて』の自発の表現→周囲の人の納得→環境改善(欲しい物が手に入るなど)
あるいは
かんしゃくの後落ち着いてから自発の表現→周囲の人の納得→環境改善(欲しい物が手に入るなど)
にしたいわけです。いずれにしても「自発」を大事にします。これはTEACCHでもです。
自閉症のコミュニケーション指導法―評価・指導手続きと発達の確認/リンダ・R. ワトソン
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この中で、表現コミュニケーションを教える時にコミュニケーションサンプルというものを取ります。それは自閉症の人が周囲の人に向けて自発したコミュニケーション行動のみを記録します。自発したもので無い時、例えば周囲から質問されて答えたとか、指示に答えたとかは記録に入れられないのです。私は始めは「なんでやんねん。コミュニケーションしてるやないかあ」と思ったものですが、経験を積み、よく考えてみると、それってほとんど意味無いのですね。
そこらへんのことについて戸部けいこさんとやりとりしたのがこちら。
「光とともに」の戸部けいこさんに宛てたメール16
で、PECSは促す(プロンプトを出す)係は黒子に徹して、本人が「自発した気」にさせるわけです。
「光とともに」の確か第7巻かにPECSの指導を受ける小さな子が出てきて、「カードを渡して欲しい物を要求する」シーンを見て、幸子さんが「光が1年半かかったことが1日でできるようになったの・・・」とショックを受けるシーンが出てきますが、そういうこもあり得ます。(注・だからって目を三角にしてやらないでね)
「PECSを始めるための前提条件は何か?」
「PECSを始める前に検討すべき重要事項は、その子どもは好きな物を指し示すためにどのような行為(たとえば、手を伸ばす、近づく)をするか、ということです。もし、その子がお菓子やおもちゃや自分の宝物や小さなものに手を伸ばすことができるのであれば、実物の代わりに絵カードに手を伸ばすことを教えられるはずです。」
好きな物があること、それに何らかのはたらきかけがあること、というわけですね。幸子さんは「1日で・・・」と考えたけれど、好きな物・はたらきかけのアセスメントにはそれ以前に時間をかけているし、じゃあどんなカードを用意しようかというのにも時間は使っているでしょう。
それから
「子どもに特別な微細運動スキルは必要ありません。もし、小さなものを拾いあげることが難しいとしても、絵カードを工夫することで操作が可能になります。たとえば、絵カードに木や発砲スチロールのブロックを接着したり、補強を施すことで、つかみやすくすることができます。絵カードの大きさを変えることによって、扱いやすくすることもできます。」
こういうところ、本当に実践されてるなあ、ストリートファイターだなあ、と感じます。
PECSは学習のステップを6つのフェイズに分けます。
実のところ私は第3フェイズまでしか、しかとはわかっていません。
フェイズ1は、1枚のカードで欲しい物やことを自発的に要求する練習。
フェイズ2は、コミュニケーションする相手との距離が離れたり、要求する物品や活動の数が増えたりします。しかし、まだ「選択」は入ってません。つまり子どもの前には1枚のカードがある段階です。
フェイズ3で選択が入ってきます。
私がわかっているのはここまでですね。それぞれの段階でも、細かいちょっとしたヒントや、やってはいけないことがいろいろ丁寧に書かれています。
それからAAC(拡大・代替コミュニケーション)についての説明にも1章さかれています。その中で
「これらをまとめると、AACの適用によって話す能力の発達に悪影響があったり抑制されるといった証拠はなく、よい影響を示す研究結果が増えていると言えます。」
例に出ているのは Layton & Watson,1995。
まあそういうことです。もちろんどのモード(カードか身振りか音声言語か複合形態か)を最終的に選ぶのは本人さんです。
ということで、翻訳文が読みにくかったり、応用行動分析を少し知ってる方がわかりやすかったりしますが、この「自閉症児と絵カードでコミュニケーション」はとてもいい本です。
PECSに関して門眞一郎先生のさまざまな資料があります。
http://www.eonet.ne.jp/~skado/book3/book3.htm