しかし偏執的に細かい引用をしていると大事な部分が抜け落ちる気はするなあ。
ってことで興味をもたれた方は購入して下さい。
3.TEACCHセンターのサービス
概要
「センターによって規模は多少異なるが、1つのセンターには5〜7名のセラピストと数名の管理スタッフがいる。所長(ディテクター)はライセンスをもった臨床心理の専門家であるが、その他のセラピストは教師やソーシャルワーカーなど、自閉症にかかわるさまざまな職種の出身者である。出身の職種が何であっても、セラピストは自閉症児とその家族が抱える問題に対して総合的にかかわれるように※ジェネラリストモデルに従ってトレーニングを受ける」
ジェネラリストの説明は前エントリに出てきたので省きます。
診断セッション
「TEACCHのサービスの多くは診断から始まる」ところが、ということが後に出てきます。
教育セッション(拡大診断セッション)
「現在は、保護者に子どもの指導の仕方を教育するという側面が強くなり、教育セッションと呼ばれるようになった。
通常は、1回1時間、週に1回ずつ、2〜6回程度行われる。」
学校や施設との連携
ソーシャルグループ
ワークショップとセミナー
日本だとどうだろう。「発達障害者支援センター」にあたるのだろうけど。
発達障害者支援センター一覧
によると最低1県に1か所はあります。ただしセラピストは4名くらいじゃなかったけ。人口の似ている大阪府で見てみると3か所ありますね。これがノースカロライナは9か所というのだからすごく充実してる感じはします。
で、発達障害支援センターもTEACCHのセンター的な活動はやってるとこ、やりたいとこ、全然できてないとこ、いろいろだろうな。それこそ悩みの相談とか、外部の診療所の紹介とか、本の紹介とか、ちょっとした講演会とか・・・
ある地域のセンター的なところ(発達障害者支援センターではありません)の活動は「ほとんど講演」「セラピスト(?)は非正規雇用でころころ変わるので経験の蓄積がされない」などの問題があるようです。
4.シャーロットTEACCHセンター
概要
「シャーロットは人口80万人のノースカロライナ州の中の大都市の一つで、アメリカ南部の金融の中心地である(中略)
シャーロットTEACCHセンターはメッケンバーグ群(シャーロット市もこの群のなかにある)の80万人の人口をカバーしているが、」
人口規模は浜松市。
「センターのスタッフはディレクターが1人、セラピストが5人、秘書(事務)が2人の全部で8人だ。センターは州政府の建物のワンフロアーの1隅にあり、そんなに広いわけではない。多分60坪くらいで、ディレクターの部屋とセラピストの個室、そして診断や指導のために使う指導室が二つ、課題の素材や道具などを置いておく倉庫、事務室、待合室などがある。」
人数・規模ともうらやましくてためいきが出ますね。浜松市ですよ、浜松市。
私の近所の地域だとこういうのが2か所あっても不思議は無いわけだ。
「最近の変化は高機能自閉症やアスペルガー症候群の人が増えたこと、成人ケースの増加、さらに0〜3歳の低年齢層の増加などだ。こういった傾向はアメリカに限らずイギリスや日本でも同じだ。シャーロットでは受信者が増えたため、以前は拡大診断セッションの回数は6回あるいはそれ以上だったのだが、現在は2回になった。」
●ホームスクール
もともとアメリカやオーストラリアではホームスクールはあったようですね。
「以前にはなかった傾向としてホームスクールで学ぶ子どもの増加がある。」
「インターネットの普及でたくさんの情報を容易に入手できるようになり、保護者のなかには子どもが受けている教育方法に疑問を持つ人も増えてきたといった背景がある」
「通常学級で困難に遭遇するため以前よりも多くの高機能自閉症の子どもがホームスクールで学ぶようになった。」
エジソンが「なぜなにぼうや」と呼ばれて学校にいられなくなった、というエピソードを思い出します。
「TEACCHセンターのスタッフも、ホームスクールを選択した自閉症の子どもに対しては相談にのる機会があまりなかった。そのため保護者は子どものニーズについて知る機会が乏しい。ホームスクールの自閉症の子どもを、コミュニティでどうサポートしていくかも、これからの課題になるだろう。」
●インテーク
「インテークはシャーロットなどのいくつかのセンターで採用された、診断・評価とは異なる、長時間待たずに利用できるサービスの一つだ」
ってことは「診断・評価」の希望者が多すぎて、長時間待ちになってしまっているわけです。
「診断・評価のウエイティングリストは1年以上になってしまい」
ためいき。そう言えば先日、日本自閉症協会の掲示板で私も絡んだやりとりで「小児精神科医にワクチン接種をお願いするなんてとんでもない」という話が出ていましたが、これは小児精神科医がこの「診断・評価」をお願いされてしまっているからでしょうね。診断は小児精神科医のお仕事かもしれないけど、評価は別の機関ほうが良さそうな気がする。
「日本の一般的な病院や療育センターでは医師1人が1時間弱の時間で診断を下すことが多いだろう。3人の専門スタッフが1時間近くをかけて評価して『診断ではない』ということは不自然というか、ぜいたくな印象があるかもしれない。TEACCHでは診断を非常に重視する。正確な診断には早期発達の情報や認知スキルの評価が不可欠であり、1時間程度では支援に役立つ『診断』は難しいというのがTEACCHの立場だろう。」
ためいき。
診断の流れ
「診断の日までの保護者のペーパーワークはかなりある」
「しかし記入していくうちに、子どもの発達について過去を振り返ったり、普段の生活では気づかない子どもの特性に気づいたり、自分がどんなサービスを欲しているのかを明確にする効用もある。」
「保護者によってはたくさんの項目に記入できないこともあるので、そういう場合は保護者に電話したり、事前にセンターに来てもらって面談して聞くようにする。TEACCHプログラムは柔軟なのである。」
書かんかったらあかんやないかあ!とは言わないわけですね。
●診断の日
「実際のセッションは丸1日かけることが必要とされる。」
いろいろな評価をしつつ
「またディレクターは本人の評価のようすをハーフミラー越しに隣室から観察しながらCARS(小児自閉症評価尺度=TEACCHで開発した自閉症評価尺度で、日本版もある。現在は高機能向けに改変したCARSモジュール2の試行中)を用いて評価し、評価の目的やアセスメントツールの意味や、得られた結果について保護者に説明する。」
CARSモジュール2について
新しいCARS!!!
「その後、ディレクターが保護者に結果を詳細に説明する。もちろん保護者からの質問にも答える。単に診断名を告げるだけでなく、子どもの長所や弱点を把握したうえで、その結果に基づいてどのような教育方法で指導するのがよいのか具体的な方略を伝える。子どものポジティブな面を強調し、長所に関する認識を共有する。
しかしそれだけではなく、必要な場合には子どもの短所についてもオープンにして、率直に保護者と情報を共有する。
(中略)
ノースカロライナ自閉症協会(ASNC、P155参照)への入会も強く勧める。」
ほんま長所を褒めるのはめちゃ上手です。私なぞに対しても。とっても気持ちよくさせてくれます。
自閉症の人に音声言語で話しかける
今、日本の各地の自閉症協会は診断のおりに勧められるようになっているのかなあ・・・
●診断の後
@教育セッション(拡大診断セッション)
「1日かけて行った診断・評価は、質問に対する回答なども含めて15ページほどの詳細なレポートとしてまとめられる。」
「また、シャーロットでは利用者数が増え続けていて、サービスを提供できる子ども・保護者の数が減ってきた。このような事情のために診断・評価の後で行われる拡大診断セッションの回数が2回に減った。」
「2回の教育セッションの基本的な目標は、保護者が子どもに対して何ができるか、保護者が今までに達成したことが何であるかを保護者に理解してもらうことにある。」
「たとえば、セラピストは保護者がスケジュールを作ることを提案する。まずセラピストが子どもに合っていそうなスケジュールを作成し、保護者は家庭で使ってみる。使ってみてスケジュールが有効でなかったり、子どもに合わない点があれば、保護者が工夫して改良する。改良点についてセラピストと話し合い、より子どもに合ったスケジュールを作っていく過程は、個々の子どもに合った個別のスケジュールを作るという点で重要だ。」
素晴らしい。しかし6回できていた過去と違い2回になると、この過程を進めるのが苦しいだろうなあ。ワークシステムを伝えるところも出てきます。
A成人の支援も必要
「TEACCHセンターでは成人の相談にものっている。」
「個々のクライアントが持つ自閉症特性に加えて、さらに問題を複雑にしているのは保護者との関係である。特に高機能者の場合、保護者との折り合いが悪いことが少なくない。そのような場合、TEACCHのセラピストは本人と保護者の意見の調整や、相手が求めることを明確にすることに時間をかける。というのは、本人と保護者は往々にしてものの見方が異なっていたり、お互いに相容れない考え方をしているからだ。」
これは高機能の方に限らないかもしれません。カナータイプの方も「自分の人生を生きたい」という思いは強いかも。
「成人の場合、クライアントが住む地域でサポートする人を見つけることが大切である。」
私もそういうサポートができる「近所のおじさん」になりたいのですが。
B子どもの事例
トム君
移動の困難だったお子さんの事例
※コミュニケーションサンプル 「自閉症のコミュニケーション指導法−評価・指導手続きと発達の確認」ワトソン、ショプラー、ロード著(岩崎学術出版社1996)に詳しく説明されている。
自閉症のコミュニケーション指導法―評価・指導手続きと発達の確認/リンダ・R. ワトソン

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この本、いい本です。ただし、私1回目では全然理解できませんでした。3回目くらいでようやく少し理解できたかな。コミュニケーションサンプルは「自発した」「コミュニケーション手段(もちろん音声言語に限らない)」を記録する方法です。
事例2 ジョン君
「ジョン君は思春期の高機能自閉症の少年だ。学校でのトラブルが多く、退学になりそうになった。」
どうやら薬づけ状態であったようですが、多職種をうまくコーディネートして解決したよう。
事例3 ジャック君
「強いこだわりがあって、予定の変更があるとそれに耐えきれず暴れてしまい、保護者も教師も手に負えない男の子である。」
「特に最初のうちはスケジュールは、彼の嫌いなこと(勉強)から大好きなこと(外で遊ぶ)へ変更することで、変更すること自体に徐々に慣れるようにした。」
事例4 ユージン君
「ことばの豊富な高機能の男児。人に対して礼儀正しく振る舞うことができず、・・・」
改善してきてはります。
●保護者と意見が分かれる時
「ことばのある子どもの保護者にスケジュールなどの視覚提示を使うことを納得させるのは難しい。その時には親の前でスケジュールなどの視覚提示を使って、子どもに実際に効果があるかどうかを見せるようにする。
視覚によるコミュニケーションを使えば使うほど、音声のことばが少なくなると誤解している保護者が多い。視覚に頼っていると、音声がなくなって絵カードや文字カードが離せなくなると考えるからだ。子どもによっては長期間、視覚的な支援が必要かもしれないが、それでことばが少なくなることはない。」
おーー!!日本だけやないんや。ノースカロナイナでもなんや。
ちなみに、「長期」でなく「一生」視覚支援を使い続けられる方もいると思います。あくまでもどのモードを使うか選択するのは本人さん。で、ほんまの話、視覚支援を使っているほうが「音声言語」の理解や表現も増えると思います。そこんとこは大誤解してはる方が多いような。
●具体的な支援の考え方
「TEACCHでは絵カードや文字カード、視覚的スケジュールの使用を勧めることが多い。もちろん言語療法などのサポートを使ってことばを学ぶことも大切だと考えているが、TEACCHはことばが出るかどうかより、そのことばの使い方がより重要だと考えている。つまり相手に意図が通じる『意味のある』ことばの使い方が大切だ。」
いわずもがなの解説を加えるとここで「ことば」と書かれているのは「音声言語」を出すことですね。でもほんと絵カードなどもそれを使う人にとっては大切な「ことば」ですね。
家庭用コミニュケーションブック1
「TEACCHは現在の子どもの能力に合わせることから出発するから、子どもへの期待が低すぎるという批判をよく受けることがある。子どものレベルよりもはるかに高いことを要求しても、できないのはあたりまえだ。(中略)しかし、そのように通常の方法とは違う手法を用いることが、他の人にはTEACCHは子どもの発達を促すことを諦めていると映るのかもしれない。」
そして、あれこれ環境を整えていろいろできるようになったところを見ると「あの子らは軽いから。うちの子は重いからでけへん。」とおっしゃる。
重度の人には適用できない?軽度だと言われる?
自主研修会
たぶん、諦めてることはあって、それは「自閉症を治す」こと。あるいは「自閉症の人を普通の人にする」ことで諦めていないことは「お互いを大切にしつつうまくやっていくこと」
ハルヤンネさんから聞いた言葉(元は誰かは知らない)だと「積極的な諦め」
●実際の教育現場
「TEACCHをよく理解している教師は上手に運営しているが、残念ながら、そうでない場合もある。」
「シャーロットでは2004年からTEACCH部による学校コンサルテーションは行わなくなった。他のセンターでは学校コンサルテーションは継続して行われている。
代わりに、シャーロット地区の教育システムには自閉症スペシャリストという役割の専門家が登場した。」
次に出てくるクロスカテゴリーというのは様々な障害の子がいる特別支援学級みたいです。
「教師の研修にはいろいろな問題がある。たとえばクロスカテゴリーのクラスにいる小学校低学年の男児は、8時から11時までしかクラスにいないが、とても暴力的で他の子どもの勉強を妨げてしまう。母親は家の中から子どもを出したがらず、子どもは一日中テレビを見ている。TEACCHセラピストが学校訪問し、コンサルテーションを行った。そのクラスの教師とアシスタントは5日間のTEACCHトレーニングを受けていた。
教師は子どものことをあまり理解しておらず、勉強の面だけを心配していた。教師はスケジュールを使用しても効果がないと言っていたが、使い方が間違っていた。スケジュールの正しい使い方と、子どものレベルに合った課題を選択して教科学習よりももっと必要としていることを教えたほうがいいと提案してきた。5日間のトレーニングを受けた教師でさえそうなのだから、自閉症教育のトレーニングを一切受けていない他の教師の場合には、自閉症理解のレベルはまちまちだろうと思われる。」
は〜〜、5日間のTEACCHトレーニングを受けてもねえ。ありそうではあるな。形だけ覚えて来た場合。ちゃんと「なぜそうするのか」とか背景の考え方も丁寧に指導はするのだけど。
TEACCHセンターのFAQ
FAQはたくさんあります。一部抜粋。
質問 子どもが学校に通い始めた後の親の役割はなんでしょうか?
回答 TEACCHが全てのサービスを提供し、起こりうる課題を解決してくれると期待されている保護者も中にはいらっしゃいます。しかしながら現実は、保護者が子どもを支援し続け、受けている教育やサービスが役立っているのか、適切であるのかを保護者が確認していかなくてはならないのです。
質問 治療のため、自閉症スペクトラム障害に精通した精神科医や心理学者を推薦してくれますか?
回答 支援のできる少数の専門家が地域にいますが、ほとんどの場合においてTEACCHが推薦をすることはできません。したがって地域の自閉症協会に問い合わせ、経験を共有してくださる他の保護者と連絡を取られることをおすすめします。また地域支援に関する情報も得られるかもしれません。
質問 州外の家族はどんなことを考慮しなくてはならないのでしょうか?
回答 自閉症の子どものために支援を受ける目的でノースカロナイナ州へ移住される方には、家族全体のことを考慮して慎重に判断されることを強くお願いしています。
(中略)
移住を決定される前に、教育および住居に関する選択肢を現住所の地域で探されることが最善の方法です。
そうですね。結局、遠くに青い鳥なんていないのですね。