当然のことながら興味をもたれた方は購入して下さい。
Tでは副題を紹介するのを忘れていました。
副題「自分が自分であるために」
副題は表紙はコントラストが弱い色彩で目立たなくなっています。
中では小さい字。
でも、ひょっとしたら一番言いたかったことなのかも。
U実践編(1)TEACCHの本当の現場
1.TEACCHの組織とサービスの概観
「組織としてのTEACCH部は、ノースカロナイナ大学医学部精神科の一部門である。大学の一部門として自閉症に関する研究や教育を行うと同時に、州の公的プログラムとして臨床サービスを提供している。
臨床サービスの拠点は9か所のTEACCHセンターが中心で、その他に居住・就労支援のモデル施設CLLCがある。またセンターとは独立のプログラムとして、就学前プログラム(チャペルヒルのTEACCHセンターのプレスクール)と就労支援プログラムがある。さらに医師がかかわるサービスとして一部のセンターには外来の医療相談がある。これらのサービスはすべて公費で行われ、州民であればクライアントの経済的負担はない。」
州からの相当の財政負担が行われている、ということですね。
ちなみにノースカロナイナの統計は
面積 139,391 平方km 北海道と東北地方を合わせたくらい
人口(2003年)8,407,248人 大阪府くらい
人口密度 60.31人/平方km 北海道(70.36人)より低い
州都シャーロット 人口610,949人 足立区とか鹿児島市くらい
ということで、相当広く、かつ人は少ない、というイメージですね。アメリカの州としては面積で全米28位、人口で11位ということですから、これでも人口密度はアメリカでは多め、ということになるのでしょうが。
東北6県に各1つセンターがあり、北海道には3つある、というくらいでしょうか。距離的には。少ないですね。
人口的には大阪府に9つあるわけだから、多いということになるかな。
「自閉症の支援には高価な機器も施設も、特殊な技能や資格もいらない。自閉症を正しく理解し、自閉症特性に配慮した教育や支援を行うことで、だれでも、今より自閉症の支援を適切にできるようになるのである。」
同意します。何の資格もいらない。機器はまあタイマーとかVOCAとかパソコンとかがあれば、と思うけれど無くても何とかはなる。(でもパソコンは欲しいか)肢体不自由の人のためのエレベータとか人口呼吸器とかはいらないことがほとんどだもんな。
2.TEACCHの幼児教育
チャペルヒルセンターのプレスクール(就学前プログラム)
「アメリカでは1997年に特別支援教育に関する連邦法が一部改訂され、発達障害の子どもに対して2歳までに家庭や地域社会を含めた通常の環境のもとで、行政が子どものニーズに応じた早期支援を行うことが規定された。現実には家庭や保育園などに専門家が定期的に訪問して支援することと、その費用を行政が負担することを意味する。また3歳以降も可能な範囲でできるだけ自然に近い環境で、つまり定型発達の子どもと一緒の環境で教育することが規定されている。」
2歳!でも今、日本も就学前施設や保育園に行くのはそんなもんかな?
「TEACCHプログラムに限らず、多くの先進的な特別支援教育の専門家は自閉症には自閉症に特化したプログラムが必要だと考える点では、ほぼ一致している。」
私の知ってる日本のある地域の公立幼稚園では通級みたいな形で特別支援教室へ行き、そこでTEACCH的な指導をあれこれやり、それを子どもが戻る普通園にフィードバックしてとてもいい感じの幼稚園生活を作ってはりました。
「入門編で説明したように、個別化がTEACCHの基本理念である。TEACCHアプローチでは子どもが何歳であっても決められた課題集を一定の順番でやっていくということはしない。個々の自閉症の子どもを理解し、個人個人に合った支援の方法を多様な側面から柔軟に考えていく方法をとる。そうすることで、彼らが自立のために必要な能力を身につけ、自立した生活が可能になっていけると考えるのである。
TEACCHは自閉症の人に役立つと考えればいろいろな方法を採用する。※プロンプトや※シェイピング、※ご褒美、※レスポンスコストなどの伝統的な行動療法の手法を使うこともあるし、※インシデンタルティーチングや機能的行動分析などの新しい行動理論的手法も必要に応じて採用する(※印のことばの説明は次ページ)。ソーシャルストーリーや後述するフロアタイムなどの新しい方法も導入する。TEACCHは柔軟であり折衷的だ。
入門編で述べた構造化のアイデアは、もちろん幼児教育から適用される。むしろ幼児期の方が教室は高度に物理的構造化がなされている。」
この「高度に物理的構造化」というのは、別に天井まで届くベニヤの個室がいっぱい(いわゆるオウムの修行部屋)という状態ではないと思います。あくまでも、「ここでは何をする」がはっきりしていて、かつ衝立やホワイトボードでしきりもありいの、シンボルや色でわかりやすくしておりの、ということだと思います。で、だんだんと大きくなるにつれて(あるいは個別に落ち着くに従って)そのような視覚を遮るものも少なくてすむ場合が多くなる、ということだと思います。
「ことばの説明
※プロンプト 促し。子どもができそうでできないことに、大人がヒントを与えること。たとえば、子どもが返事をして手を挙げるのを忘れているときに軽く手をタッチして、手を挙げることを促す。
※シェイピング 行動形成。着脱などの一連の行動を部分に分けて教え、最終的に一連の行動がひとりでできるようにすること。
※ご褒美 強化子・好子などともいう。よい行動ができたときにほめたり、お菓子などの報酬を与えること。
※レスポンスコスト 問題行動・不適切行動などが生じたとき、本来与えられるべきご褒美を減らしたりして行動をコントロールすること。
※インシデンタルティーチング 機会利用型あるいは偶発的教授法などと訳す。教室などの日常場面で要求表現などが生じる機会を積極的に増やし、適切な言語モデルを示し、子どもにコミュニケーションを教えていこうとする方法。」
えっと、プロンプトとしては、視線、ちょっとした動き、音声なんてのもあります。で、プロンプトを外すことを常に考えていないと、そこがむつかしかったりします。シェイピングは完成形の最後(後ろの方)から自力でできるようにしていくのがコツみたい。何か言い方があったんですが、忘れた。
問題行動に対してレスポンスコストが例としてあげられていますが、問題行動に対して取られる手法はたくさんありますので。ってか先行刺激のコントロールや表現コミュニケーションを増やす、できることを増やすなどの手法のほうが多くとられるような気がします。
問題行動、と呼ばれる困りごとについてのお話
「れもん」ボランティアさんへの講義9「問題行動の理解と対処」
●スケジュール
「それぞれの子どもに個別のスケジュールが準備される。
(中略)
定型発達の子どもは次は何かと予測できなくてもかまわないし、むしろ予定外のことを喜ぶものだ。『今日は天気がいいなあ。じゃ国語をやめて体育にしよう!』と言われて大喜びした経験のある人のほうが多いだろう。
しかし、少し想像力を働かせてみれば、運動の苦手な子どもとか、国語が好きな子ども、そして、もしそこに自閉症の子どもがいたとしたら、こういった子どもたちはつらかったかもしれない。世の中は『天気がいいぞ、外に行こう!』と言われて大喜びする子どもばかりではなく、少数ではあっても苦痛に感じる子どももいるのだ。多数派にいつも合わせなければいけないということはない。
(中略)
TEACCHプログラムは『自閉症だから』という考え方をするが、『自閉症だから、しょうがない』ではなく『自閉症だから、自閉症特性を考慮した解決策を考えよう』とする。
自閉症特性を考慮した解決策の一つが(一つであって全部ではない)構造化だ。
(中略)
声かけすればいいじゃないかという意見もよくあるが、自閉症の場合、聞いて理解する能力は乏しいことが多い。特に二つ以上のことを声かけで指示されると、全部は覚えていられなかったり、どの順番で指示されたのか混乱しやすい。周囲のことがわからなければ不安になるのは当然だ。周りの子どもの動きをみてよくわからないままに模倣するか、おどおどして戸惑うしかなく、不安がこうじてパニックになることさえある。」
周りの動きについて行ってた例
過去の記事69(ルーチンでできることとカード2)
おどおどして戸惑う例
卒業式の練習3
あるAAPEPを受けた自閉症のお子さんとAAPEPをした専門家との会話
「(このレベルの音声言語理解で)音声言語のみを使って関わったらどうなりますか?」
「おどおどした自閉症の人になります」
●四つの疑問
「ワークシステムも自閉症の苦手な点、つまり複数の物事を順番にこなしていく能力の不足を補うための工夫である。自閉症の子どもが、知らないと不安になりがちな次の四つの疑問に、視覚的かつ具体的に答えを出すために使われる。
四つの疑問とは『どんなこと(課題や活動)をするのか?』『どれだけ課題の量があるのか?』『完成まで、あとどのくらい課題が残っているのか?』『課題が終わったら、次は何をするのか?』という疑問である。
(中略)
具体的かつ視覚的に伝えないと不安が高じ、課題どころではなくなってしまうのである。」
私はブログの中でついついワークシステムを移動の生じないスケジュールとして、手順書(子スケ、孫スケなど)のことをワークシステムと呼びがちになってしまいますが、手順書の場合もありますが、ワークシステムというのは、作業をする時の材料が入っているカゴだとか、おしまい箱(フィニッシュボックス)など、上記の疑問をはらすための工夫は全てワークシステムに入りますね。
●自閉症特性を意識した改変
「1対1の指導場面でワークシステムが理解できるようになると、今度は自立課題の場所でワークシステムにしたがって一人で複数の課題を順番にこなしていくように指導する。それができれば、プレスクールのいろいろな場面でワークシステムやスケジュールを理解して、場所の移動を伴った一連の課題を自立してこなしていけるように指導する。」
この順番はどうなんだろう。自立課題の方が簡単(もちろん、できる課題を考えるからですが)だし、わかりやすい場合が多いような気もします。というのも「対人間」のやりとりをしなくてすむから。もちろん初めての課題の時は後ろ(つまり視線に入らない所)から、腕を操作したりのプロンプトが必要になるから結局人手はいるのですが。
「早期教育では、『何を』教えるかより、その子どもを『どうやって』教えるのが効果的なのか知ることが大切になる。子どもに合った教え方を見つけることが出発点になるのだ。」
これは早期教育に限らないと思います。「TEACCHは寿司桶論 フォーマットとコンテンツ」とかと同じで、コンテンツ(中身・寿司)はどんどんその時、その時で変わっていく。もちろんフォーマットの方も少しずつ変わっていくのですが。
●2歳〜5歳児の教育
「TEACCHプレスクールの幼児グループは六つに分かれている。グループ1はスタッフが自宅へ行って教育をする形態である。グループ2から6はチャペルヒルTEACCHセンター内にあるプレスクールでサービスを行う。
(中略)
プレスクールは母親の交流の場としての機能ももつ。(中略)言語療法や作業療法などを他のサービス機関で受けながらTEACCHプレスクールに通う子どもも多い。
このように一人の子どもに多数の専門家が関与していることが多いので、できるだけ専門家同士で協力体制をとるようにしている。
(中略)
ノースカロライナ州でも地方では専門機関同士の協力体制ができていないところが多い。」
母子通園施設の感じですかね。
●プレスクールの指導
●指導の内容
「高機能の子どものグループを例に紹介する。(中略)その際に左図のような視覚提示を使うと子どもにとってわかりやすく注意もそれにくい」
高機能のお子さんでも視覚提示(この場合は絵)を使ってますね。
「台本(スクリプト。P49)をカードで提示しながら、その日の話題について話したり、質問したりすることもある。たとえば、『これは・・・です』『・・・が−−−しています』『私は・・・(こんな気持ち)です』などとカードに書いて見せると、子どもが自分の言いたいことを表現しやすくなる。」
音声言語で表現できる場合でもちょっとした手助けがあると、うまく言え、それによって正しい言い方を身につけ、自信もうまれるわけですね。
「高機能の子どもの場合にはスカベンジャーハントなどを行うこともある。スカベンジャーハントとは捜し物競争のような遊びで、紙に描いてある物を公園などで探す。視覚的に提示できることや、何を探しているのか、何がすでに探せたのか、あといくつ探したらよいのかなどがわかりやすく、高機能の子どもが好むことが多い。」
スカベンジャーハントで使う写真ボードが載ってますが、楽しそうです。
●フロアータイム
う〜ん、これはどんなものかわかりません。
●保護者との連携
「保護者との協力は幼児期には特に重要だ。
保護者には、その日に子どもがどんな課題をどんなふうにこなしたかを率直に伝え、プレスクールと家とで、子どもへの期待が違わないようにする。課題の場面では保護者も課題指導に参加して、家でもできるように練習することもある。
さらに週に1回の保護者の勉強会などで構造化の考え方などを研修したり、話題になった教材・写真のスケジュールなどを保護者に渡して使ってもらうこともある。」
実のところ、セッションで本人の力が伸びたとかでなく、保護者に「その子にうまくあった構造化」を知ってもらうことが大事じゃないか、と思います。実際、セッションそのもので、子どもの力が伸びる、とかいうものじゃなさそうな気がしますし。
●コミュニケーション指導
「プレスクールでは絵カードによるコミュニケーション指導をよくする。このような方法は※PECSと似ているが、TEACCHプログラムではPECSほど文法にはこだわらない。
※PECS (Picture Exchange Communication System)ボンディ(心理学者)フロスト(言語療法士)によって考案されたコミュニケーション指導法。絵カードを用いることはTEACCHのコミュニケーション指導と類似しているが、まず絵による要求から始めて徐々に複雑なことを教えていくという段階的な方法をとる。」
ここは門眞一郎先生にはちょっと違うご意見があるようです。
http://www.eonet.ne.jp/~skado/book3/book3.htmの中の「3.本当のPECS」をご覧ください。
TEACCHとPECSの違い
「子どもによって発達水準や問題点が異なるので、個別に工夫を行うことが必要だ。教師はいつも自分で一番よいと思う設定を柔軟に考える必要がある。
(中略)
ことばの発達がゆっくりでまだ音声言語を教える段階にきていない子どもにも声かけはするが、それをむりやり模倣させることはしない。」
●社会性の指導
「5〜6歳の高機能の子どものグループ(グループ5)は社会性の指導に重点をおいている。」
様々な見てわかるソーシャル・スキルを支援するものの写真があります。
話し合いをする時に「聞く時」とたぶん「話す時」がわかるような絵。
声の音量調節のための絵。
「たとえば聞く順番の子どもは耳をすませて口をつぐんでいるカードを首にかけて、聞く順番であることを伝える。自分がしゃべる番になると、『しゃべってもOK』のカードを先ほどまで話していた子どもから受け取るわけである。」
このカードは首からかけるより手で持っていた方がわかりやすいでしょうね。首からかけると見えなくなるから。
●オン・ゴーイングの評価の指導
「課題の設定にはPEP−Rなどのアセスメントを元にするが、それは出発点であって子どもの状態によって変えていく。実際の指導場面で日々子どものアセスメントをして個別化するオン・ゴーイングの評価・指導でなければいけない。苦手なこと、好きなこと、得意なことなどをきちんと把握して個別化する必要がある。たとえPEP−Rができなくても、その子どものスキルや、ニーズを把握して課題を作ることが大切だ。」
今はこんなものもあるのですね。私は見たことがありませんが、役に立つのは保証します。
DVD 自閉症の子どもの評価 生活スキル編 4巻セット
DVD わかる・できる! 親と教師のための「自閉症の子どもの自立課題」全3巻セット
ふ〜〜、今日はここで力つきました・・・