卒業式の練習をしていました。予行演習ではなかったけれど、本
番がかなり近づいた時でした。
A君が途中で立ち上がり、うろうろし始めました。担当は異動し
て来られたベテランさん。優しく「A君、戻っておいで」と何度も
声をかけますが、A君は全然気づきません。かなり長い時間、練習
もストップしました。
基本的に他の担任のことには口を出さない、というのが暗黙のル
ールでした。いや私は「人の担任している子のことは口を出すな!」
と明確に言われたこともあります。(まあ、これを言った方、私が
その方の担任しているお子さんを私の授業で受け入れる(つまりそ
の方の負担が減る)と申し出た時は喜んでOKして下さいましたが)
しかし、私は見かねてついに口を出しました。
「私が代わりに指導してもいいですか?」許可を取りました。
私はA君の側へ行き、肩をとんとんとしました。そして椅子を指
差しました。彼は椅子のところまで来て立っていました。
私は持っていた職員用の式次第のプリントを彼に示しました。彼
は字がわかります。じっと見ました。私は今まで終わったところを
横線で消して行きました。
そして残った所を指さしました。「これだけ残ってる」と音声言
語で言ったかな?よく覚えていません。
その下に下手な絵で、椅子に座っている人の絵を描きました。
その絵を指さし、この時は「ここまで座っています」と言ったと
思います。
彼は椅子に座り、その後、練習終了までずっと前を向き、気を散
らすことなく座っていました。
異動してきたベテランさんは、渋面をつくりすごく考え込んでお
られました。
ここで本当に視覚支援の大切さを得心されたようです。(TEACCH
の、かどうかはわかりません)翌日からA君のために式次第を用意
して下さるようになりました。
このエピソード・・・単にお前(kingstone)の連絡不足じゃな
いか、と言われればその通りですね(苦笑)事前にA君が、どんな
ことを理解し、どんなスケジュール(この場合はワークシステム。
ハルヤンネさん流に言えば、子スケ・孫スケ)だったらわかるか。
それを伝えることができていたら何の問題も無かった。しかも、
用意するのは職員用のプリント1枚でOK。何のめんどくささも無
い。
まあ私のプレゼン能力では、まるまる1年かかったわけです。
このエピソードをパソコン通信に書いた時、ある質問が来ました。
「単にA君との人間関係が、異動して来られたベテランさんよりkingstone
さんとの方が良かっただけでは?」
「人間関係」というのが何を差すかは難しいですが、たぶん異動
して来られたベテランさんの方がよっぽどわたしより人間関係が良
かったと思います。
私は直接の担任では無くなっていたので、関わりは薄くなってい
ました。また異動して来られたベテランさんが地域校交流か何かで
お休みの時はA君はベテランさんを探すような行動が見られました。
校外学習の時に、帰る時刻になって「あれ?A君いないよ」とな
った時にベテランさんが探しに行くと、A君がベテランさんを見つ
けてやってきたりすることもありました。私は、すげえなあ、と思
って見ていました。
「人間関係」というのか「愛着行動」というのか、はるかにベテ
ランさんの方が上だったと思います。