※このブログに書いていることは、私の関わりある法人の意見ではなく、
 あくまでも、私個人の意見です。

2024年01月14日

ABA, TEACCH, CBT での発達障害児者支援における専門的技法



『発達障害研究』第43巻に書かれた3本の論文


について、どのようなものが専門的技法と書かれているのか、まとめてみたいと思います。もちろんこれらの論文の字数では語りきれないので、みなさんはしょって書いてあり、「これが専門的技法だ」と言い難いことにはなっていますが、初学者が今後、どういったことを勉強していけばいいのかのヒントは出して下さっていますね。
以前の私のまとめでは、言葉を変えてしまったところがあるので、できるだけ原文で。

ABA
1.見本合わせ課題
@椅子に座らせ、机上に示した写真や文字のカードに注目させる。
A見本刺激や比較刺激のカードを計画された順番や位置で手際よく提示しなければならない。
B強化刺激の提示が即時でなければならない。
C正誤の記録を手際よくしなければならない
2.動画の活用
3.絵カードの活用
AAC またその中の PECS
事例は絵カードを使った要求を伝える実践
4.PBS
特に機能的アセスメント

注意事項 個に合わせること
紹介した内容を俯瞰してみると、確かに発達障害児者の支援において専門性の高さは重要ではあるものの技法を使うこと自体を目的とすべきではないことが確認できたように思う。支援者は技法の意義を理解し、柔軟にその技法をカスタマイズすることが求められること、つまり個に応じた支援を探求することが専門的指導技法を用いる目的であるということである。


TEACCH
1.ユニークな学習スタイル
2.家族との協働
3.全人的視点
4.ストラクチャードティーチング(いわゆる構造化)
事例に出てきた専門的技法
・視覚的てがかり
・スケジュール
・ワークシステム
・マテリアルストラクチャー
・職員の関わり方を家族も学び、話し合う時間を持つ
・悩みを相談できるシステム
・母親勉強会

注意事項 個別化:1人ひとりに合わせる(誤解されがち)
ストラクチャードティーチングは「なぜ」「誰のために」実施するのか、ということを従来の構造化の実践者たちは再考する必要があるだろう.
2つ目は、TEACCHのもつ概念である「個別化」のとらえにくさである.「一人ひとりに合わせる」という意味での個別化が、「1対1対応」とか「一人ですごす環境を用意する」とか間違って理解されている現場をよく目にする。

CBT
1.心理教育
2.認知構成法
3.リラクセーション
4.エクスポージャー
5.SST
それらを行うにあたって必要なこと
1.視覚支援
2.こだわりの利用 → 好きなものを利用する
3.具体的表現
4.介入内容の調整 → 各個人に合わせた調整が行われる
5.親・学校の関与

 なんかみんな似たようなことを書いておられる部分がある。そしてそれは当然だと思います。

 そしていずれも視覚的支援について言及されているのですが、さて、視覚的支援のやり方をどうお伝えするかというプログラムは、PECS 以外ではまだ無いかな・・・


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「発達障害者に対する認知行動療法」木原陽子他を読む



「発達障害者に対する認知行動療法」
 ー自閉スペクトラム症をもつ子どもの不安に対する認知行動療法の適用と課題ー
 木原陽子・石川信一(2023)『発達障害研究』Vol.45, 3, ,201-208

認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy;CBT)とは、行動的技法と認知的技法を包含する心理社会的アプローチの総称である。CBTは複数の理論から構成され多様な技法を有している。

 私にとっては某氏からうかがった「認知行動療法とは総合格闘技である」というのが一番しっくりきています。

 なお、ここで「行動的技法と認知的技法を包含する心理社会的アプローチ」というのは、『本当の TEACCH』で内山登紀夫さんがショプラーさんにインタビューした時の「TEACCH が重視するのは強化子のみではなく、認知理論からもたらされた、人間がどのように環境を理解し学習するかという点に焦点をあてた知見に基づいた指導方法である。」という回答を思い起こさせます(つまり強化子も大事にしている)。


 認知行動療法の場合は「全部で◯回のセッションを行い、1回目はかくかくで、5回目はしかじかで」というパッケージが多くできているのですね。

研究が蓄積されている代表的な CBT プログラムについて展望を行った。まず、文献検索はPubMed を用いて “autism” “anxiety" “CBT” のキーワードで検索した。そのなかで,複数の効果研究で行われている8つを、ASD をもつ子どもの不安に対する代表的な CBT プログラムとしてレビューした。

 その8つは

1. A modified version of Coping Cat program (Coping Cat) 
2. The Building Confidence program with modifications (Building Confidence program) 31)
3. Cool Kids ASD 2nd edition (Cool Kids) 
4. Discussing + Doing = Daring
5. Exploring Feelings
6. Behavioral Interventions for Anxiety in Children with Autism (BIACA)
7. Facing Your Fears protocol (FYF)
8. Multimodal Anxiety and Social Skills Intervention (MASSI)  

 そこで用いられている主な技法は

1.心理教育
2.認知構成法
3.リラクセーション
4.エクスポージャー
5.SST

とのこと。次に、上記と日本の4研究を合わせ、その中で指摘されている工夫をふまえ留意点を指摘している。

1.視覚支援
・教材にイラストや図を多く用いる
・発言を紙やホワイトボードに文字情報として残す
・折れ線グラフや円グラフの使用

 そして 「視覚支援は CBT の各技法通じて適用すべき工夫である」と書かれている。

(っていうか、生活全般、暮らし全般だと思うけど・・・)

2.こだわりの利用
 ここで書かれているのは、「心理教育の具体例やエクスポージャーの強化子に子どもの好きなキャラクターを用いたりする」と書かれているので、これを「こだわり」と言うのかどうかは、私には少し疑問かな。でも、本人の好きな物を用意するというのは大賛成。

3.具体的表現
 そりゃそうだ・・・

 ここまで、おめめどうで言うところの(厚生労働省も言ってるみたい)「視覚的・具体的・肯定的(2.の「君の好きなもの、なかなかいいねえ」というのは肯定的にあたると思う)」だな。

4.介入内容の調整
 結局のところ「1人1人に合わせる」というわけで、この特集の「応用行動分析」でも「TEACCH」でも同じことを言ってますよね。

5.親・学校の関与
 セラピールームだけでは完結せず、支援会議などを含め、チームで取り組む、ということですね。

 なんか、「実際に適用する時の工夫」としてはみんな同じことを言ってるような・・・

 で、そこが大事なのだと思うのだけど、そこを強調するのは TEACCH (そしておめめどう)となるのかな。
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2024年01月13日

「他害や自傷などの行動問題を示す自閉症者への支援」村本浄司他を読む



 ※この記事は福祉事業所での取り組みではあるのですが「特別支援教育や関わり方など」のカテゴリに入れます。

「他害や自傷などの行動問題を示す自閉症者への支援」
 ー先行子操作を中核としてー
 村本浄司・角田 博文(2014)『自閉症スペクトラム研究』Vol.11, 2, 29-37

 対象者は知的障害者更生施設に入所していた34歳男性 A氏。
 行動問題として他害・自傷・妨害行動があった。
 散歩に出かけようとする時など、床に座り込み大声を出すなどの拒否行動も見られた。
 B園では外からは鍵がかけられるが、中からは開けられない部屋に居た(これは「拘束」として今は原則禁止されているのではなかったかな?)。

 この論文は2014年のもの。ということは1980年以前に生まれておられ、6歳で自閉症の診断を受けておられるので、まだまだ「どう対応したら良いのか」は一般的なお医者様・療育機関・養護学校などではまったくわかっていなかった、という時代であるだろう。養護学校高等部卒業時でもまだまだ一般的にはなっていなかった時代だと思われます。実際にそういう結果とうかがえる行動が記述されています。

 この論文は2014年に発表されていますから、たぶん2010年から2013年までのどこかで取り組まれたものだと思います。しかしその時期なら、すごくひっかかるというかモヤモヤする点がずっとありました。しかし P35 の考察の次の文を読み、筆者たちは「わかったうえで」「何らかの『できない』理由があって」まずこの取り組みをしたのであろう、と想像できました。

しかし、本研究では以下のような課題が残された。
まずは、Aの日中活動において「次に実施する活動を行いたい」という要求を充足できるような手続きが行われていないことである。具体的には、Aに絵や写真による活動スケジュールを提示し、その操作法について支援し、A 自身が次の活動について事前に確認できることによって、「次に実施する活動を行いたい」という要求を充足できると考えられる。さらに、「次に実施する活動を行いたい」という A の要求の背景には、「次に何をやるのかわからないという予期不安」があると推測され、活動スケジュールの操作を支援することによってそのことが軽減される可能性がある。

 私にすれば、介入だなんだと言う前に、環境設定として「まずここから」始めるべきものと思えます。しかし、上の文を読んで、再び読み返すと、いろいろ苦渋の選択的に思えるところが出てきます。

 事例を簡単にまとめてしまうと、アセスメントの結果

・活動と活動の間の待ち時間や余暇時間に行動問題が出ている
・行動問題はわざわざ職員に見えるところでやっている
・着替えに興味がある

ということがわかった。つまり「やることがない」「注目が欲しい」ということと考えられる。そこで、

B園内で支援可能な支援計画を第二著者とAの担当職員が共同で支援計画を立案した。

介入1. 待ち時間や余暇時間に靴下を12足、箱に入れて提示。

また半転期を入れたのち、

介入2. 靴下を40足に増やした。また上着・ズボンのセットを合わせて25着、居室で着替えもできるようにした。

結果 数字はそれぞれの期間に1日のうちで行動問題の起きた数の平均

     他害  自傷  妨害
BL期  15.0  13.2  11.5
介入1   8.2   7.7    6.6
反転期 (最初少なかったが徐々に増加)
介入2  1.3    1.3    1.0

 行動問題が激減していったことがわかります。その他の場面でも職員とA氏の関係が良くなっていったり、(たぶん適切な)要求の行動がより頻繁に現れたりするようになったことがわかります。

 さて、最初に戻って「問題と目的」のところで

施設に入所している行動障害のある自閉症者の場合、彼らの行動障害を理由に施設内で活動範囲や活動レパートリーを制限されがちである(黒木・納富、2005)。その理由として、施設内で必要な人員配置が満たされていない場合には、行動問題を示す自閉症者に対して叱責や隔離といった支援者にとってコストが低い対応が実行されやすいことが挙げられる(平澤ら,2003)。そのような施設環境は自閉症者にとって満足できる環境とは言い難い。すなわちそれらの環境刺激の欠如は、感覚的強化で維持されているような自閉症者の常同行動を容易に生み出しやすくすると考えられる(Kennedy, 2002)。

と書かれています。「行動問題を示す自閉症者に対して叱責や隔離といった支援者にとってコストが低い対応が実行されやすい」となっていますが、これ、本当にコストが低いのだろうか。もちろん、私は「いや違う」と言いたいし、著者たちも同じだと思います。

 確かに叱責や隔離によって「事前にスケジュールやカレンダー、手順書などを準備する手間や時間」や、「事前に計画し、事後に改善について考える手間や時間」というコストを削ることができる、ということはあります。しかしそれらを削ることによってどんなコストを支払うことになっているでしょうか。

・本人の不安やケガ
・周囲の利用者や職員が不安かつ物理的にもケガをする可能性
・隔離や叱責に使うエネルギーや嫌な感情(これ、相当大きいと思うのですが。しかしそれを大きいと思わず「当然」と思えてしまうなら、それも「その人が闇に落ちてしまう」というめちゃくちゃ大きなコストを払うことになっているような気がします)
・「そんな職場は嫌だ」と思う職員の離職
・新規採用に掛かるコスト
・新規採用者を教育するコスト
・家族にかける「心労」というコスト(なお「心労」だけでなく帰宅時には物理的な苦労をかけているかもしれない)

 そして、これらは当然福祉事業所だけのことではなく、学校園でも同じだと思うのです。

 しかし、「B園内で支援可能な支援計画を第二著者とAの担当職員が共同で支援計画を立案した」結果としては、スケジュールをすることは時期尚早と考えられたのではないか、と思われます。やったことのない方にとっては「めんどくさい」し、またやり始めても、本来の「(やりたいことがいつできるか)見通しをつけるため」のものではなく「支配と服従のため」のものとして使われそうでもあります(そうなると「効果が無い」だけならまだしも、折角のコミュニケーションのチャンネルを失うことになり、行動問題は頻発します)。

 また

施設職員が ABA による支援を初めて行う際は支援の効果が不明確であるにもかかわらず、専門的知識や特定の支援技術が求められることから支援の実施を敬遠する者もいると推察される(村本・角田、2012)。

 何か明確な方法が他にあるのだろうか?「隔離と叱責」?

 あと、「やってみなくちゃわからない(支援の効果が不明確)」というのはその通りで、「うまくいく」のか「うまくいかない」のか、本当に「やってみなくちゃわからない」。そしてそれがアセスメント(インフォーマルなアセスメント)にもなるわけだけど。

 まあ、10年前の論文です。今は事業所も学校園も進んでいるかな?

posted by kingstone at 10:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 特別支援教育や関わり方など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年01月11日

「TEACCH Autism Program の適用と課題」諏訪利明を読む



「TEACCH Autism Program の適用と課題」
 諏訪利明(2023)『発達障害研究』Vol.45, 3, ,193-200

I. はじめに

TEACCH の考えが日本に伝えられて 40年以上になる。当初、熱狂的に受け入れられた時代を経て、医療、福祉、教育等、さまざまな現場での適用が試みられてきた。その支援の基本的な方法として,「視覚支援」はよく取り上げられているが、背景にある TEACCH の考え方が理解されないまま実践されていくことで、しばしば反発や誤解にさらされてきたとも考えられる。内山はその著書「本当の TEACCH」のなかで、日本のなかで起こっているさまざまな TEACCH への批判と誤解に答えているが、「自閉症の理論に基づいた支援方法を考えるということが TEACCH の本質だ」と述べている。


(一連の記事は2010年の夏ですが、当時はウツによるネタキリから起き上がったばかりの頃で、無職でお金が無かったので、図書館で借りてきて読んで書いてますね)

で、この論文は「専門的指導技法の適用と課題」というテーマの特集にも関わらず、支援者の「考え方」「態度」というようなものが大きなテーマになっているように思います。そしてそうなる流れは本当によくわかります。

II. TEACCH Autism Program の考え方

こうした(ノースカロライナ州での)サービスの柱となる TEACCH の介入哲学として,「ユニークな学習スタイル」「家族との協働」「全人的視点」「ストラクチャードティーチング」という4つのキーワードが挙げられている。

「ユニークな学習スタイル」とは、自閉症の脳機能の違いから生じる自閉症の人の認知機能の違いや情報処理の仕方の違いのことである。自閉症の人たちの行動には、この学習スタイルが影響を与えていると考えることで、さまざまな支援方法が見えてくる。

 いわゆる「特性」のことと考えていいかな。

2つ目は「家族との協働」である。

 これは昔、私などが「保護者と専門家との関係」として学んだことになるかな。


6.保護者と専門家との関係
 TEACCHでは保護者と専門家の関係に4つの場合があり、それぞれを大事だと考えます。またこの専門家には教師や保育士も含まれます。
1.専門家が保護者に教える
専門家はたくさんの例を見ていますから、特に混乱している時期の保護者にいろいろ教えてあげ、楽にしてあげることは大切です。
2.保護者が専門家に教える
しかし、そのお子さんに関しては世界で1番よくわかっているのは保護者の方です。保護者は専門家にいろいろなことを教えてあげることができます。
3.お互いを支え合う
お互いにいいところを見つけて励まし合うことができます。これはすごく大事なことです。
4.協力して社会を変えていく
社会を変える、というとえらく大げさになりますけど、例えば買い物に行く、ということひとつをとっても、自閉症の方のやり方で買い物ができる(ゆっくりだったり、さいふごとレジの方に渡すやり方だったり)店が増えることは理解者を増やし、自閉症の方の住み易い社会を作ることになります。

3つめは「全人的視点」である、英語では holistic という言葉があたる、自閉症の全体像をとらえて支援することであり、TEACCH がいう「ジェネラリスト」という言葉ともつながっている。

4つ目は「ストラクチャードティーチング(Structured TEACCHing)」である。原文では、従来 Teaching と表記していたところを「TEACCHing」と表記し直している。そのニュアンスを日本語で表現したかったので、ここではあえてカタカナ言葉で表現している。意味は構造化と同じ意味である。

 ここで「原文」となっているのは

TEACCH Autism Program (2023) : Learning Styles of Individuals with Autism, TEACCH Five-Day Classroom Training.
TEACCH Autism Program (2023) : Learning Styles in Autism, Virtual TEACCH Training Fundamentals of Structured TEACCHing.

のいずれか、あるいは両方だと考えられます。

「構造化」と言うと、漢字の印象から机にパーティションがあるようなものを想像しがちだけど、私は「わかるようにする」と訳せばいいのじゃないかな、と思っています。特にその中で「見てわかるようにする」ことの割合が大きく、パーティション(もちろんその人に合わせることが大事なのですが)を使う場合ってすごく少なくていいような気がしています。しかし少ないと言っても、ある人のある時点では大切だったりするからややこしいのですが。

ストラクチャードティーチングの考え方は、自閉症の学習スタイルを理解することから生まれている。主な学習スタイルとしては5つのキーワードが挙げられている。その5つとは「暗黙的学習」「聴覚情報処理」「注意」「実行機能」「社会的認知」である。

暗黙的学習→苦手(見てわかるように伝えると理解できることが多い)
聴覚情報処理→苦手だったり時間がかかったり(見てわかるように伝えると理解できることが多い)
注意→しばしば細部に向かったり、切り替えが苦手だったり(これも全体が見えるように伝えるといいのでは?)
実行機能→段取り、見通し、整理統合など苦手(自分なりのやり方を身につけるとか支援するとか)
社会的認知→上記が全て絡んで苦手(見てわかるように伝えると理解できることが多いのでは)

しかし

こうした学習スタイルの理解のうえに、ストラクチャードティーチングの支援が生まれてきたわけである。しかし。その構造化が、自閉症の人たちの視点から組み立てられていなかったため、しばしばいびつな実践が現場のなかでは展開することになった。

 これは TEACCH だけでなく、ABA でも起こり、自閉スペクトラム症の当事者(ただし知的には軽い、あるいは優れている)から起こったニューロダイバーシティ運動で、強く批判されている点になるのではないかな。それこそ「我々抜きで我々のことを決めるな」と。

【j-ABA&WEST公開講座】ND✕ABAダイアローグ(2023年12月23日)

(上の YouTube 動画はどういう条件で見えたり、見えなかったりするのだろう?)

最終的な目標として「自立」「柔軟性」「般化」「セルフアドボカシー」「ウェルビーイング」の5つの長期目標が掲げられている。


III. 発達障害児への適用例と課題

 すごくはしょって紹介すると・・・
 現在成人の方。幼児期に通園施設に通い、母親が TEACCH の考え方に触れている。そしてその考え方を実際に利用した関わりがされてきた。ここでいくつかの専門的指導技法(?)と考え方が出てくる。

・視覚的てがかり
・スケジュール
・ワークシステム
・マテリアルストラクチャー
・職員の関わり方を家族も学び、話し合う時間を持つ
・悩みを相談できるシステム
・母親勉強会

 しかし特別支援学校中学部1年から様々な失禁・他害などの行動問題が出てくる。かなりあとに学校に見学に行くと、自閉症の生徒たちにまったく視覚的支援がされていない状態。また教師の関わり方を見ていて「これは人権侵害ではないか」と母親は感じられたとのこと。
 幼児期から通っていた療育センターの先生から学校に具体的アドバイスをして頂き、実際に校内で OJT をして頂き、本人さんの行動が変化する様子を目の当たりにした担任が関わり方を変えてくださり、視覚的支援、選択活動、不要な刺激にさらされないようにする、スケジュールを用意するなどし始めた。  
 家庭でも年齢相応の余暇活動ができるようにしていった。そのようにして徐々に落ち着いた。
 しかし他校の高等部に進学したところ、学校への行きしぶりが出た。今回はすぐに学校に見学に行ったところ、前校の中学部から強く引き継ぎして頂いていたこともやってもらえてなかった。そこですぐに療育センターの先生に介入して頂き、やはり OJT をして頂いたところ、教師は「どうすれば伝わるか、どうすればわかりやすくなるのか、考えるのが楽しくって仕方がないです」と言われるほど変わられたとのこと。
 現在は、実家の隣地に1戸を建て(「離れ」のイメージ)、多くの福祉サービスを併用して自立生活を送っておられる。

 この「行動問題が出た時」にこの「療育センターの先生」のように動いてくださる方は少ないだろうし、この例はかなり稀有な例といってもいいかと思います。
 
 しかし、1校に1人、校内支援部(あるいは自立活動部)にこの療育センターの先生のように動いてくださる方がいれば、問題がほとんどなくなるような気がするのですが。そしてご本人もご家族も、教師も幸せに暮らせるのじゃなかろうか、と思うわけですが。


IV. 学術上の問題

ストラクチャードティーチングは「なぜ」「誰のために」実施するのか、ということを従来の構造化の実践者たちは再考する必要があるだろう.


 「本人中心」「本人の QOL をあげる。(本人の自己実現)」ただし、そのためには交渉し、うまくやっていくことが必要にもなる。

2つ目は、TEACCHのもつ概念である「個別化」のとらえにくさである.「一人ひとりに合わせる」という意味での個別化が、「1対1対応」とか「一人ですごす環境を用意する」とか間違って理解されている現場をよく目にする。

 で、また「ただし」なのだけど、「1対1対応の時間を作ってはいけない」ということではない。

 また「1人ですごす環境を用意する」ことも同時に非常に大切なことである、ということですよね。「III. 発達障害児への適用例と課題」のところで「年齢相応の余暇活動」の中に、そういうものも含まれているのじゃないかな。

 で、やっぱり「専門的指導技法」の前に「どう考えてその技法を使うのか」が大切になるし、じゃあ「専門的指導技法」なんてどうでもいいのか、と言うと、そんなことは無い、となってやはり OJT でお伝えしていくしかない部分は大きいか・・・


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「応用行動分析学に基づいた専門的指導技法の適用例について」竹内康二を読む



「応用行動分析学に基づいた専門的指導技法の適用例について」

 竹内康二(2023)『発達障害研究』Vol.45, 3, ,184-192


1. はじめに

専門的指導技法は、個別の事例研究による検討を経て適用方法の大枠としてのガイドラインが作成され。モデル化されることで汎用性が確立され。多くの現場で用いられることになる.


 医療だとこういう「ガイドライン」が多くの場合作られている。けれど、応用行動分析の場合、作られているんだろうか?例えば最近話題になった「強度行動障害に関する支援ガイドライン」ができたのは知っているけれど、他にもいっぱいあるのだろうか?

(ガイドラインでは無いけれど「「体罰」に反対する声明」は出ている。これもガイドライン的ではある)

 また初学者が陥りやすい「技法を学んだら、学んだ形のまま何も考えず適用しようとする」危険を避けるための注意書きになると思うが、こう書かれている。

発達障害児者への支援は個に応じた目標や手続きによってなされることが原則であるため、専門的指導技法もまた個に応じたカスタマイズが必要となる。つまり、支援を受ける人の数だけ微調整された技法が存在する。

 つまり「支援の個別性」のことだけど、次の TEACCH に関する文でも強調されているところだな。
 これはよくわかる。しかし微調整するのは初学者には難しいことであるけれど。

II. 見本合わせ課題

「見本合わせ課題」というのは例えば



の中で、「うさぎ」という文字カードと、「うさぎ」と「ひつじ」の絵カードを提示し、文字と絵をマッチングさせてもらっているようなの。

スクリーンショット 2024-01-11 17.40.19.png
(これ、封筒を切った部分が残りすぎて字が全部見えず「うなぎ」に見えるな(汗)指導の直前にぱぱっと作ったもんで・・・)

これは応用行動分析とは言わずとも、よく学習で使われている方法です。しかしちゃんとやろうとすれば

@イスに座って机上の課題を見る
A適切に順番や位置を計画する
B即時強化
C記録

などの専門的な知識・技術が必要で、OJT や OFF-JT でそれらを身につける必要があると。

(まあ、私の場合だと、「知識の伝達・獲得・使用」よりも、「その時間を本人と支援者が楽しく充実して過ごす」を一番に考えているので、場合によっては@は必要なくて、Cもそれほどではなく、みたいに考えているけれど、それは「応用編」なのかもしれない。う〜〜ん、しかし「知識の伝達」とかその効果をまじめにねらうとお互い苦しむだけの場合が多くなるのじゃないか、という気はするなあ・・・しかしこの論文であえて「技法」について書いているのは、この特集が「特に若い実践者が、専門的指導技法を学ぶ機会となり」というこの特集のテーマの縛りによってわざわざそちらの方向に書いてはるのかも)

 なお、ここに書かれていた、インスタ等で「いいね」を押すことで選んだかどうかを知る、という形の授業は「使える!」と思いました。

III. 動画の活用

Charlop-Christy et al は対面による指導よりもビデオ映像を用いた視覚的な介入の方が ASD 児者の行動獲得を促すことができることを示した。
Charlop-Christy. M. H.. Le, L. & Freeman, K. A. (2000) : A comparison of video modeling with in vivo modeling for teaching children with autism. Journal of Autism and Developmental Disorders, 30 (6). 537-552.


 これ、ASD 児者に限らないような気はする。また行動獲得まで行くかどうかは別として、対面でこちらが指導するよりも、画面のほうがより注目してくれることは、肢体不自由養護学校でも多く経験した。

 ビデオを使った介入は、難しげに言うと VBI(Video Behavior Instraction とでも言うのかな?)と言うらしい。その中に以下のようなのが含まれる。

@ビデオフィードバック(VF)
VFは、対象児者自身の一連の行動(適応的な行動もしくは不適応的な行動またはその両方)を撮影したビデオを作成し、対象児者がそのビデオ映像全体を観察した後、フィードバックを受けて自己の行動が適切であったか否かを評価することを求める手続きである。

Aビデオプロンプト(VP)
VPとは一連の標的行動を実行するモデルやタスクを客観的視点または主観的視点から撮影したビデオを作成し、そのビデオを個々の行動ステップに細分化(課題分析)する、または行動ステップ間に休止を挿入して提示する手続きである.

B代理的自己モニタリング
ビデオを用いた自己モニタリングは、自身の行動が記録されるビデオを視聴し,自身の行動について評価を行う手続きであり、不適切行動が減少し適応行動が増加したと報告する研究が数多くある。

う〜〜む。私には@とBの違いがよくわからない。また@とBはかなり知的に高い児童・生徒にしか適応しないような気がするが、重度知的障害の方に適応した例があるとのこと。(榎本拓哉・竹内康二(2014):重度知的障害児へのビデオフィードバックを用いた行動支援:自由遊び場面での不適切行動の修正から、明星大学心理学研究紀要,32,19-23.)あれ?この論文ではBのところで出てきたけれど表題に「ビデオフィードバック」と書いてあるな。

 しかし、1つ思うのは、このビデオフィードバックは、特別支援学校や特別支援学級の教師が適切な指導法を身につけるためにこそ、非常に有効な方法だと思う。

 またAは、タブレット端末の実践例でよく出てくるのだけれど、手軽さから言うと、1枚ものやめくり式の手順書のほうが良い場合が多いのではないかと思ってしまう。もちろんタブレットだと注目してくれやすい、ということがあるのだけど、それ以前に視覚的支援をいろいろやっていたら、手軽に紙でできそうな気がするが。


IV. 絵カードの活用

 まず要求を伝える、質問に回答する手段の確保について語られ、 AACAugmentative and Alternative Communication : 補助代替コミュニケーション)について説明があり、その後 PECS の解説、また実際の現場での使用法(PECS とは言えないかも)が解説される。

知的障害が重度の方の場合は、単に絵カードを用意するだけでなく、本人の生活環境のなかで使いやすい工夫を施したコミュニケーションの方法を検討する必要があるだろう。このような本人中心の特別仕様を絵カードに行うのも現場で求められる専門的指導技法の1つであろう.

 PECS は「専門的指導技法」というのにふさわしい体系、技法の集積があると思うけれど「本人の生活環境のなかで使いやすい工夫を施したコミュニケーションの方法を検討する」というのはもっと一般的なことではないだろうか(というかそうなって欲しいという願いかな)

V. PBS の理解

応用行動分析学に基づいた行動問題へのアプローチとしてポジティブ行動支援(Positive Behavior Support : PBS) がある。PBSは、個人の行動レポートリーを拡大し個人の生活環境を再設計し、個人の生活の質を高めることで個人の問題行動を最小化するための応用科学である。

 たぶん「行動レポートリー」→「行動レパートリー」

 しかし、「行動問題へのアプローチ」という側面はありながらも、第1層の人たちへは、単に「良い行動が増える」「気分良くなる」「(その場の)心理的安全性が高まる」というものじゃないかな。もちろん「行動問題が起きにくくなる」という予防の意義は大きいのだけど。


 続いて、PBSの中の特に重要な技法として「機能的アセスメント」が紹介される。

 確かに「機能的アセスメント」は「専門的技法」に入るのかもしれない。
 その前段階(?)の ABC 分析だって、かなり慣れないと、役に立つ分析にならないし。その C の部分がどういう機能を果たしているかを分析するのが「機能的アセスメント」だろうし。

VI. 結びに

紹介した内容を俯瞰してみると、確かに発達障害児者の支援において専門性の高さは重要ではあるものの技法を使うこと自体を目的とすべきではないことが確認できたように思う。支援者は技法の意義を理解し、柔軟にその技法をカスタマイズすることが求められること、つまり個に応じた支援を探求することが専門的指導技法を用いる目的であるということである。

 はい。
 結局ここに行き着くのですよね。

社会実装が実現するために何が必要なのかを検討した研究は少ないため、今後の課題としたい。

 まじ、ここやな。
 で、そこに少しでも爪痕を残したいのだけど。










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