「TEACCH Autism Program の適用と課題」
諏訪利明(2023)『発達障害研究』Vol.45, 3, ,193-200
I. はじめに
TEACCH の考えが日本に伝えられて 40年以上になる。当初、熱狂的に受け入れられた時代を経て、医療、福祉、教育等、さまざまな現場での適用が試みられてきた。その支援の基本的な方法として,「視覚支援」はよく取り上げられているが、背景にある TEACCH の考え方が理解されないまま実践されていくことで、しばしば反発や誤解にさらされてきたとも考えられる。内山はその著書「本当の TEACCH」のなかで、日本のなかで起こっているさまざまな TEACCH への批判と誤解に答えているが、「自閉症の理論に基づいた支援方法を考えるということが TEACCH の本質だ」と述べている。 |
(一連の記事は2010年の夏ですが、当時はウツによるネタキリから起き上がったばかりの頃で、無職でお金が無かったので、図書館で借りてきて読んで書いてますね)
で、この論文は「専門的指導技法の適用と課題」というテーマの特集にも関わらず、支援者の「考え方」「態度」というようなものが大きなテーマになっているように思います。そしてそうなる流れは本当によくわかります。
II. TEACCH Autism Program の考え方
こうした(ノースカロライナ州での)サービスの柱となる TEACCH の介入哲学として,「ユニークな学習スタイル」「家族との協働」「全人的視点」「ストラクチャードティーチング」という4つのキーワードが挙げられている。 |
「ユニークな学習スタイル」とは、自閉症の脳機能の違いから生じる自閉症の人の認知機能の違いや情報処理の仕方の違いのことである。自閉症の人たちの行動には、この学習スタイルが影響を与えていると考えることで、さまざまな支援方法が見えてくる。 |
いわゆる「特性」のことと考えていいかな。
これは昔、私などが「保護者と専門家との関係」として学んだことになるかな。
6.保護者と専門家との関係
TEACCHでは保護者と専門家の関係に4つの場合があり、それぞれを大事だと考えます。またこの専門家には教師や保育士も含まれます。
1.専門家が保護者に教える
専門家はたくさんの例を見ていますから、特に混乱している時期の保護者にいろいろ教えてあげ、楽にしてあげることは大切です。
2.保護者が専門家に教える
しかし、そのお子さんに関しては世界で1番よくわかっているのは保護者の方です。保護者は専門家にいろいろなことを教えてあげることができます。
3.お互いを支え合う
お互いにいいところを見つけて励まし合うことができます。これはすごく大事なことです。
4.協力して社会を変えていく
社会を変える、というとえらく大げさになりますけど、例えば買い物に行く、ということひとつをとっても、自閉症の方のやり方で買い物ができる(ゆっくりだったり、さいふごとレジの方に渡すやり方だったり)店が増えることは理解者を増やし、自閉症の方の住み易い社会を作ることになります。
3つめは「全人的視点」である、英語では holistic という言葉があたる、自閉症の全体像をとらえて支援することであり、TEACCH がいう「ジェネラリスト」という言葉ともつながっている。 |
4つ目は「ストラクチャードティーチング(Structured TEACCHing)」である。原文では、従来 Teaching と表記していたところを「TEACCHing」と表記し直している。そのニュアンスを日本語で表現したかったので、ここではあえてカタカナ言葉で表現している。意味は構造化と同じ意味である。 |
ここで「原文」となっているのは
TEACCH Autism Program (2023) : Learning Styles of Individuals with Autism, TEACCH Five-Day Classroom Training.
TEACCH Autism Program (2023) : Learning Styles in Autism, Virtual TEACCH Training Fundamentals of Structured TEACCHing.
のいずれか、あるいは両方だと考えられます。
「構造化」と言うと、漢字の印象から机にパーティションがあるようなものを想像しがちだけど、私は「わかるようにする」と訳せばいいのじゃないかな、と思っています。特にその中で「見てわかるようにする」ことの割合が大きく、パーティション(もちろんその人に合わせることが大事なのですが)を使う場合ってすごく少なくていいような気がしています。しかし少ないと言っても、ある人のある時点では大切だったりするからややこしいのですが。
ストラクチャードティーチングの考え方は、自閉症の学習スタイルを理解することから生まれている。主な学習スタイルとしては5つのキーワードが挙げられている。その5つとは「暗黙的学習」「聴覚情報処理」「注意」「実行機能」「社会的認知」である。 |
暗黙的学習→苦手(見てわかるように伝えると理解できることが多い)
聴覚情報処理→苦手だったり時間がかかったり(見てわかるように伝えると理解できることが多い)
注意→しばしば細部に向かったり、切り替えが苦手だったり(これも全体が見えるように伝えるといいのでは?)
実行機能→段取り、見通し、整理統合など苦手(自分なりのやり方を身につけるとか支援するとか)
社会的認知→上記が全て絡んで苦手(見てわかるように伝えると理解できることが多いのでは)
しかし
こうした学習スタイルの理解のうえに、ストラクチャードティーチングの支援が生まれてきたわけである。しかし。その構造化が、自閉症の人たちの視点から組み立てられていなかったため、しばしばいびつな実践が現場のなかでは展開することになった。 |
これは TEACCH だけでなく、ABA でも起こり、自閉スペクトラム症の当事者(ただし知的には軽い、あるいは優れている)から起こったニューロダイバーシティ運動で、強く批判されている点になるのではないかな。それこそ「我々抜きで我々のことを決めるな」と。
【j-ABA&WEST公開講座】ND✕ABAダイアローグ(2023年12月23日)
(上の YouTube 動画はどういう条件で見えたり、見えなかったりするのだろう?)
最終的な目標として「自立」「柔軟性」「般化」「セルフアドボカシー」「ウェルビーイング」の5つの長期目標が掲げられている。 |
III. 発達障害児への適用例と課題
すごくはしょって紹介すると・・・
現在成人の方。幼児期に通園施設に通い、母親が TEACCH の考え方に触れている。そしてその考え方を実際に利用した関わりがされてきた。ここでいくつかの専門的指導技法(?)と考え方が出てくる。
・視覚的てがかり
・スケジュール
・ワークシステム
・マテリアルストラクチャー
・職員の関わり方を家族も学び、話し合う時間を持つ
・悩みを相談できるシステム
・母親勉強会
しかし特別支援学校中学部1年から様々な失禁・他害などの行動問題が出てくる。かなりあとに学校に見学に行くと、自閉症の生徒たちにまったく視覚的支援がされていない状態。また教師の関わり方を見ていて「これは人権侵害ではないか」と母親は感じられたとのこと。
幼児期から通っていた療育センターの先生から学校に具体的アドバイスをして頂き、実際に校内で OJT をして頂き、本人さんの行動が変化する様子を目の当たりにした担任が関わり方を変えてくださり、視覚的支援、選択活動、不要な刺激にさらされないようにする、スケジュールを用意するなどし始めた。
家庭でも年齢相応の余暇活動ができるようにしていった。そのようにして徐々に落ち着いた。
しかし他校の高等部に進学したところ、学校への行きしぶりが出た。今回はすぐに学校に見学に行ったところ、前校の中学部から強く引き継ぎして頂いていたこともやってもらえてなかった。そこですぐに療育センターの先生に介入して頂き、やはり OJT をして頂いたところ、教師は「どうすれば伝わるか、どうすればわかりやすくなるのか、考えるのが楽しくって仕方がないです」と言われるほど変わられたとのこと。
現在は、実家の隣地に1戸を建て(「離れ」のイメージ)、多くの福祉サービスを併用して自立生活を送っておられる。
この「行動問題が出た時」にこの「療育センターの先生」のように動いてくださる方は少ないだろうし、この例はかなり稀有な例といってもいいかと思います。
しかし、1校に1人、校内支援部(あるいは自立活動部)にこの療育センターの先生のように動いてくださる方がいれば、問題がほとんどなくなるような気がするのですが。そしてご本人もご家族も、教師も幸せに暮らせるのじゃなかろうか、と思うわけですが。
IV. 学術上の問題
ストラクチャードティーチングは「なぜ」「誰のために」実施するのか、ということを従来の構造化の実践者たちは再考する必要があるだろう. |
「本人中心」「本人の QOL をあげる。(本人の自己実現)」ただし、そのためには交渉し、うまくやっていくことが必要にもなる。
2つ目は、TEACCHのもつ概念である「個別化」のとらえにくさである.「一人ひとりに合わせる」という意味での個別化が、「1対1対応」とか「一人ですごす環境を用意する」とか間違って理解されている現場をよく目にする。 |
で、また「ただし」なのだけど、「1対1対応の時間を作ってはいけない」ということではない。
また「1人ですごす環境を用意する」ことも同時に非常に大切なことである、ということですよね。「III. 発達障害児への適用例と課題」のところで「年齢相応の余暇活動」の中に、そういうものも含まれているのじゃないかな。
で、やっぱり「専門的指導技法」の前に「どう考えてその技法を使うのか」が大切になるし、じゃあ「専門的指導技法」なんてどうでもいいのか、と言うと、そんなことは無い、となってやはり OJT でお伝えしていくしかない部分は大きいか・・・
posted by kingstone at 18:54|
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特別支援教育や関わり方など
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