お子さんが新しい進路に進まれる親御さんへ
kingstone
ただ、まだまだ進級や進学のさいに引き継ぎがうまくいかない場合もあるようです。私の知っている例でもある学年ではスケジュールをはじめとした視覚支援がなされていたのに、翌年は6月になって「このお子さんへのスケジュールはどういう形式がいいですか?」と、新担任がより専門性があると考えられていた課題学習担当の先生に尋ねている報告を見たことがあります(つまり旧担任との引き継ぎがうまくいっていなかった)。ということは4月からはまともにされていなかったことがわかります。それで困っていたのはお子さん本人です。なお、このお子さんの場合、ある学年くらいまではおだやかに成長されていたのに、後年まだ在学中に私がお会いした時は強度行動障害状態になっておられました。(私がお会いした時(まだ在学中)も黒板の時間割以外はスケジュールもなければその他のまともな視覚支援もありませんでした)
今年度の「学校日記」のページは来年度には無くなってしまうかもしれませんが、現在の様子がよくわかります。いくつか視覚支援に関連した例を上げてみます。なお「視覚支援、意外と少ないじゃないか」と思われるかもしれませんが、始めるとどんどん環境になじんで気をつけないと他の方にはわからないようになっていくことも多いです。
2023年3月2日「小学部 6年生を送る会」スクリーンに大きくスケジュール(式次第)が出ています。
2023年1月24日「中学部3年 協働学習」作業の手元に手順書があります。
2023年1月12日「教職員研修」帝京大学の金森先生の研修の2回目かな。
2022年11月14日「小学部1年 図画工作」作業机の上に個人用のコミュニケーションブックかスケジュールブックと思われるものが置いてあります。
2022年8月1日「教職員研修」帝京大学の金森先生の研修です。映し出されたスライドに「ICT活用の3つのポイント」とあり「社会参加と自立」「コミュニケーション」「学びの楽しさを知る」となっていて、ドロップスの絵が使われています。
2022年7月20日「終業式」お話だけでなく、何を話すか(今日の予定、スケジュールですね)が前のスライドに映っています。
2022年6月23日「教職員研修」たすく株式会社の先生が講師です。たすくではこちらの下の方にある動画を見て頂ければ、たくさんのスケジュールや視覚支援を利用しておられることがわかります。
2022年6月15日「高等部1年 進路見学」これは学校外の事業所へ見学に行かれた時のものですが、作業をどれだけやれば良いのかがわかる工夫をカゴでやっておられます[1] 。
また徳島県教育委員会のように県をあげて取り組んでおられるところもあります。下記は徳島県教育委員会のホームページ内にあります。
徳島県はSWPBS(スクール・ワイド・ポジティブ行動支援)を、まずは特別支援学校から始め、地域の学校へと広げていっておられます。この中の「特別支援教育に関するFAQ」の3つ目のタブにある「自閉症の児童生徒に有効な「構造化」について教えてください。」の回答ところを引用してみます。(色づけや下線はkingstone)
スケジュールの提示(時間の構造化)は,見通しを持った活動が可能になり,指示待ちの態度の形成を予防し,自分の力で自主的に行動しようとする態度を育てることができます。また,あらかじめ予定を伝えることで,混乱からくるパニックを減らすことができます。「声かけでわかる」ではなく,「自分の力でわかる(できる)」を目指しましょう。 ワーキングエリア(学習に取り組むための場所)やカームダウンエリア(落ち着くための場所)など各空間を物理的に区切り,その空間では何をすればよいかわかるようにし,活動と場所を結びつけることも有効です(物理的構造化)。ただし,これらのエリアを廊下や外が見える位置に設置すると,戸外からの刺激が学習の集中を妨げます。また,カームダウンエリアの設置は安全面に配慮しましょう。 ワークシステム(手順の構造化)は,教員が絶えず密着して指示や指導をしなくても,課題の意味,手順,量などを理解して「一人で自立して」学習できるようにするためのものです。指導は,全ての課題が終わり,教員に終了報告があってから行いましょう。 児童生徒が自立して活動できていなかったり,混乱する様子が見られたりしたときは,構造化の見直しを行いましょう。 |
もちろん、徳島県も全ての学校にはこういう考え方が行き渡っていないかもしれません。しかしその場合も、ホームページにこう書いてあることをお伝えし、また何とかこういうことがよくわかっている特別支援教育担当の先生や指導主事さんに連絡をつけ(ホームページ作成に携わっておられるのですぐにわかるはずです)、その先生からこういう考え方が大事なことを伝えて頂くこともできますね。
そして徳島県だけでなく、各自治体、ちゃんとしたことを考えておられる教育委員会の方がホームページなどに、「こうしたらいい」ということを書いてある場合はよくあります。その場合も、そこからたどって進級・進学する学校の先生に伝えて頂くこともできるかもしれません。
なお、進学・進級での引き継ぎをうまくやる方法として、もし計画相談を受けておられるなら、相談支援専門員にお願いして「支援会議」を開いて頂くのもいい手だと思います。以前の保育園や幼稚園、学校、クラスなどでうまくいっていた場合は特にです。
もともと計画相談は幼児から成人まで、教育・福祉が連携して、一貫したご本人に良い環境を作っていくためにできた制度です。
参加者は、可能であればご本人、そしてご家族のうち最低1人、旧担任、新担任、相談支援専門員、またできれば関わりある福祉事業所の担当者、学年主任や管理職の先生もご参加頂ければありがたいけどお忙しいかな。場合によれば関わりある医療関係者にも来て頂ければありがたい。
もちろん先生方はお忙しく、働き方改革も喫緊の課題であることは間違いありません。会議などのお仕事の時間も減らすことを考える必要もあるでしょう。またひょっとしたら進む先の先生方が「視覚支援など面倒くさいだけで、また言葉(実はその方たちの考えておられるのは音声言語のみの場合が多い)でやりとりできなきゃ困るじゃないか 」[2] とお考えになっているかもしれません。ひょっとしたら「子どものためを思って」。つまり善意ですね。しかし視覚支援や構造化を使わなければ、ご本人だけでなく先生方もたいへん忙しくなったり、無理を重ねなければならなくなったりする可能性が高いことを、前担任や福祉関係者などから伝えて頂き、先生方が楽になる手段でもあるのだ、という点は強調して頂けたらと思います。
徳島県の Q&A にも書いてありますね。「声かけでわかるではなく、自分のちからでわかる」「教員が絶えず密着して指示や指導をしなくても、課題の意味、手順、量などを理解して、一人で自立して学習できるようにする」ようになれば、先生方はすごく楽になるはずです。(そのためには授業内容の見直しも必要になったりはしますが)
なお、2015年頃は、相談支援専門員(計画相談)のことをご存知無い学校関係者も多かったのですが、現在は特別支援学校の先生ならば当然ご存知というふうにはなってきています。通常校ではどうなのでしょうか?特別支援教育コーディネーターさんなら確実にご存知だと思うのですが。
また2015年以前は福祉関係者から学校関係者に連携を申し入れることは非常にハードルが高かったのですが、「文部科学省と厚生労働省が縦割り行政にならないように連携していこう」という「トライアングルプロジェクト」が開始され、その結果
教育と福祉の一層の連携等の推進について(通知)平成 30 年(2018 年)5 月 24日
というものが両省連名で出されました。ここで相談支援の重要性、学校との連携の重要性について書かれています。
また「カレンダー、スケジュール、筆談」などは発達障害のある方への合理的配慮にあたると思います。 2011年の障害者基本法の改正、2013年の障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)の成立により、合理的配慮の不提供は差別となることが明記されました。
教育については「過重な負担」が無い場合に提供されるという条件があり、教育側が「カレンダー、スケジュール、筆談etc.」が「過重な負担」であると主張されるとやってもらえない可能性があります。しかし前にも書きましたように、実は負担を減らすことに役立つのですが。なお、
特別支援教育の在り方に関する特別委員会(第3回) 配付資料 平成22年(2010年)9月6日では
別紙2 「合理的配慮」の例 として
9.LD、ADHD、自閉症等の発達障害 ・個別指導のためのコンピュータ、デジタル教材、小部屋等の確保 ・クールダウンするための小部屋等の確保 ・口頭による指導だけでなく、板書、メモ等による情報掲示 |
と書かれています。
なお、計画相談を受けられておられない場合は、まず旧担任にお願いして声かけをして頂きましょう。学校間(学年間)引き継ぎはうまくいけば新担任はすごく楽になりますし。
もしうまく引き継いでもらおうと思った時に、こういったことを学校が一切拒否をされる場合は、教育委員会、文部科学省、自閉症協会、育成会何でもかんでも使って学校に変わってもらうしか無いですね。決して煽っているわけではなく、その場合は「管理職、支援部長、担任(教師集団?)」の勉強不足が明らかなのですから。
しかし、そんなことをするのは、親御さんにとってもたいへんしんどいことですね。
私が実際にご相談にのった時も「その学校以外の場で、ご本人が居心地良く過ごせる場所に進む」という選択肢を上げたこともあります。これはご本人の状態により様々だと思うのですが、進路の選択肢は学校の種類も、福祉事業所も結構いろいろあるものです。少し古くなっているかもしれませんが、私はこんなものをまとめたこともあります。
あと先生方にお伝えする時に気をつけないといけない言葉もあります。例えば「集団でみんなと活動できるようになったらと思います」というような言い方は、先生によっては「よっしゃ。本人が嫌がっても無理やり引っ張って行き、羽交い締めでその場に居るようにしよう。そのうち慣れるだろう」と考えて、実行する先生もおられました。その先生にうかがうと「親御さんが懇談会でそう望んでおられたのです」とおっしゃっていました(なお視覚支援や構造化はいっさいありませんでした)。実際の文化祭でのその様子をご覧になった親御さんは「そんなことはお願いしていない」とつぶやいておられましたが、こういう誤解はよくありそうです。残念ながらまだ親御さんが勉強されて、先生によっては言葉の使い方を考える必要はありそうです。
また視覚支援も構造化も「自分で考える」「一人でできる」を目指していくものなのですが、「個別指導」という言葉を先生が使われる場合、「ひっつき回る」「のべつまくなしに指示する」ことを頭に思い浮かべておられるのかもしれません。それは逆に事態を悪くする一番の近道ですから、それは違うのだということはうまく説明できると良いのですが。
ここに書いたことは、この4月の入学・進級には間に合わないかもしれません。しかし、来年以降ならゆっくり進んで行かれてもものごとが変わっていくかもしれません。少しずつは確実に良くなってきていますし。
でも、本当に楽しく暮らしていきたいじゃないですか。頑張りすぎてお疲れを出されませんように。そしてできるだけたくさん協力して頂ける方をつないでいきましょう。
[1] 「社会に出たら視覚支援(構造化)なんて無い」というのは違ってきていることがわかります。。
[2] 「社会に出たら視覚支援なんて無いのだから、やめましょう」この言葉には苦い思い出があります。
「自閉症のお子さんの表現コミュニケーションの獲得」ここに出てきたお子さんは、私の異動後、すべての視覚支援を外され、動けなくなり、その後ほぼ不登校。なお成人事業所で、人手も無いのに(無いからこそ?)徐々に良くなっていかれました。なお笑顔は出なくなったままです。