次は地域の発達障害者支援センターで行われた、9家族 12名(夫婦揃ってというのが3組。なお1組はお母さん1人にお子さん(成人)が2名)本人10名(全員成人)に対して行われたもの。
「ひきこもり新ガイドライン」(2010)で注目すべきは、ひきこもり状態にある人を 1 精神疾患が要因 にある群 2 発達障害・知的障害が要因にある群 3 パーソナリティ障害が要因にある群 という3群に分け、それぞれの治療方針を薬物療法、発達特性を踏まえた支援、心理的支援を中心に進めていくことが示された点である。 |
と書かれていますが、日本語、むつかしいですね・・・筆者にそう意図は無いと思いますが、精神疾患→薬物による支援、発達障害など→特性に応じた支援、パーソナリティー障害→心理的支援という読み取られ方をしてしまう可能性がある。それぞれに、(多くの場合は)全部必要だ、という意味で書かれたのだとは思いますが。
実際の「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」では、P24にこういう表が書かれています。
そこにkingstoneがそれぞれの部分に線を引いてみました。
※図はクリックすると大きくなります。
どの場合でも3つとも必要(薬物については使わない場合もありますが)なわけですね。
対象者の選定についてですが、書かれている内容をkingstoneが表にしてみました。
相談に来られた本人19名の中で、
家族からの誘導のみで本人相談可能になった 6名( 32% )
著しい家庭内暴力などで家族の介入リスクが高い 1名( 5% )
本人を自宅に留守番させる不安・家族の精神疾患 3名( 16% )
で10名を適用除外とし、CRAFT 開始を 10名
と9家族、10名で開始しています。
「家族からの誘導のみで本人相談可能になった」が6名おられますが、やはりご家族が支援センターにやって来られて相談にのってもらい、またいろいろ情報をもらったからこそ、だと思います。ご家族が家の中でじっとしていたら動くに動けなかったんじゃないかな。
で紹介した論文の中でも、山本彩さんも、30名中9名( 30% )が「相談機関を上手に勧めるのみで(本人が)相談に至った」と書かれていましたから、今困っている中でも 30% くらいは少し相談にのって頂けたら動きはじめる方もいらっしゃるんじゃないかな。
そして
(当時)問題行動の発生リスクが高い家族をAグループ、低いグループをBグループと分けられました。
進め方
アセスメント(1回)
・主訴・生育歴の聴取
・スクリーニングアンケートの実施
・日常生活アセスメント票への書き込み
※シート作成により、ASD 特性について理解を深めることも大きな目的
事前セッション
・ASDの理解
・ASDとひきこもりの関連
グループセッション
・全6回(2週間に1回(10週間?))
・1回2時間
・Aは5家族 Bは4家族(本人は5人ずつ)
個別セッション ・月1回(全3回)
・「個別7」は上記個別セッション時に。本人に相談に行くことなどを勧めるため慎重に行うことが必要。結果としてグループセッション6終了後になった。
フォローアップ ・家族の本人への関わり方や、家族のQOL を確認(16週間後)
kingstoneが Table2 を少し改変したものがこちらになります。
※表はクリックすると大きくなります。
グループセッション1回目はオリエンテーション(?)
グループセッション2回目は「環境調整の視点」も入っています。
グループセッション3回目は「コミュニケーションの練習」その細かい中身としては
・ポジティブなコミュニケーション(否定的な言い方は関係を悪化させる)
・「Iメッセージ(私を主語にする話し方)」の練習
・スモールステップ
・論理的な話し方
・自己選択の機会つくり
・暗黙の理解の言語化
・会話の視覚化
グループセッション4回目(上手に褒めて望ましい行動を増やす 褒める練習をしよう)
・TEACCHの「氷山モデル」の視点
グループセッション5回目(イネーブリングを止め、望ましい行動を増やす)
グループセッション6回目(家族自身の生活を豊かにする)
それぞれの回にホームワーク(宿題)が出ます。上の表には簡単に書いています。
なお、「Iメッセージ」や「イネーブリング」の例は、横浜市のホームページの中のここが参考になりました。
これらのセッションを通して、ご家族がこういうことに気づいて、できるようになっていかれます。
◎介入後の家族の関わりでは、 すべての家族が本人に対して視覚的に、明瞭に、具体的に、そして「ポジティブなコミュニケーショ ン」を利用しながら関わった
◎機能分析により短期的結果と長期的結果を意識することによりイネーブリングに気づいた
結果
本人 10名中
相談や受診につながる 6名
アルバイト開始 1名
改善割合 70%
なお、家族からの誘導のみで本人相談を開始した 6名 と
CRAFT を実施しなかった他の3名を加えると
13/19 で 68%となる
参考 山本彩他(2014)では 21/30 70%
今回の論文でも、山本さんの論文でも約70%の方に改善が見られたわけですね。
(注。改善は「本人が自分で相談に行く」「本人が自分で社会参加する」の2点のうちいずれか1点ができるようになれば改善としています)
もちろん30%の方には改善は見られなかったのですが、論文内に家族関係が良くなった様子は書かれています。
この30%の方々にも継続的に関わっていくのは福祉の仕事になるのでしょう。しかし、もちろんそこに時々でも心理職の方も加わってくだされば福祉職の人への支援にもなるなあ、と思いました。
ところで、これは私の利益相反「私はおめめどうのフェローです」というのを書いてから述べますが
「すべての家族が本人に対して視覚的に、明瞭に、具体的に、そして「ポジティブなコミュニケーショ ン」を利用しながら関わった」
というの、おめめどうの大きな柱「視覚的・具体的・肯定的」とまとめているのとほぼ同じ。
また、「自己選択の機会作り」というのも、口を酸っぱくして「選択活動」と言ってる部分。
そして「イネーブリング」に対しては、「自己責任」「責任をとる」と「(特に思春期以降は周囲は)言われた(要求された)ことだけする」そして「(周囲が何か言いたくなる本人の行動を)見ない」でいけるだろうし・・・
もちろん、これらはおめめどうに限らず、支援に関わっておられる方には常識だと思いたいのですが・・・
あと、スクリーニングというのは親御さんが幼児期とかも思い出してアンケートに記述していくのですが、幼児期に気づかれていない方が多い。もちろん「手遅れというのは無い」「いつからだってOK」ではあるのですが、幼児期に気づかれて、「視覚的・具体的・肯定的」に接することができ「選択活動」もいっぱいやり、「責任をとる」ことをさせてあげていたら、ここまでこじれなかったのじゃないかなあ、という残念さは強く感じました。
なお、「引きこもり者」への対応については、秋田県藤里町の社会福祉協議会の取り組みは有名でした。今はどうなっているのだろう。
週プレニュース(2019年10月12日)
週刊プレイボーイは時々、すごくいい記事が出てます。
2006年からの藤里町社会福祉協議会の取り組み
2010年 実数調査 総世帯数1300 ひきこもり者 113人
当時者から悩みを聞いて相談に乗るカウンセリングを始めようとしたのだ。だが、訪問しても悩みを聞くどころか、会うことも困難だった。
「引きこもり者への『相談、指示、助言』はNGにして、情報提供に徹した。具体的には『こみっと(居場所)』のチラシを作って自宅訪問時に配布し、『今後も情報提供に伺っていいですか?』と尋ねる。すると彼らは面倒くさそうではありますが同意してくれて、『もう来るな』とは言わなかった」
(イベントには来ないので)「もしかして、働く場やそのきっかけを求めている?」菊池氏はそう仮説を立て、介護の資格取得にもつながる、ホームヘルパー2級養成研修の情報提供をひきこもり者にもしようと決断。これが当たった。当日、研修会場にはひきこもっていた人たちが次々に姿を現したのだ。菊池氏は仮説が正しかったと確信し、その後は就労支援にも力を入れるようになった。農家や酒屋店主やガス販売店主など、地域のさまざまな職種の人たちを講師に迎え、それぞれの仕事の実務を伝える『社会復帰訓練事業』も始めた。
記事の時点でひきこもり者は 10人 足らず
(ということは 10人としても、103人は社会参加し始めたわけだから 103/113 91% !!)
(もちろん、この方たちの引きこもっておられた要因は様々で、背景要因が自閉症スペクトラムの場合とは単純には比較できませんが、それにしてもすごい数字です)