現代の肖像
中澤圭ニ(48)
私が「回らない鮨」を最後に食べたのはもう10年以上も前になります。
たぶん地方ではほぼ絶滅危惧種入りしている「回らない鮨」その職人さん。
自称、「寿司バカ」ってことですが、どう見てもオタクです。(尊敬を込めてます)
「(鮨屋というのは)目の前のお客さんの顔を見て、しゃりを小さくしようと考えたり、わずか50センチのカウンター越しに人間と人間とが向きあう"さらし場"なんです」
高校を1年で中退してはります。で料亭で働いていた時「鉄火の巻平」という漫画を読んだ瞬間から鮨職人をめざしはったそうな。
「みんなが高校に行っている間に仕事を覚えて、大学を卒業するまでには店を持ってやるぞ、という夢があった。焦りと言ってもいいかもしれない」
この後、順風満帆に過ごされるわけではありません。回り道も借金漬けの生活もしたはります。
で、現在は鮨屋がたいへんな時代に複数の店を出し、暖簾分けした弟子も多数という・・・で
「こと鮨となると中澤の身体からは狂気すらにじみ出る。
築地・旭水産の塩原孝は、出会ってすぐの頃、ある酒席で、中澤からひたすら小鰭の話だけを延々と2時間近くにわたってぶつけられている。魚が何時にあがり、どう処理をされて築地に届き、どのタイミングで塩を振るべきかと中澤はとうとうと塩原に語り続けた。
『ちょっとおかしいんじゃないか、というぐらい熱く魚のことを考えている人だと思いました』」
?それって普通のオタクの姿じゃないでしょうか?
私だって、ある自閉症の人が「自発的にAという所からBという所に行く。その手立て」とかいう話だったら2時間とか楽々語れてしまいます。5時間だってOKです。
「鮨屋は、いまやあらゆる職業の中で最後に残った『理不尽の砦』だ」と書かれているあと
「『朝8時に来て夜中の1時半まで仕事をしている子たちがいったい何のために頑張っているのか。人脈、信用、技術と、頑張ったあとにはこんな素晴らしい景色が見えるよとちゃんと示さないと』」
そうやな。その「素晴らしい景色」やな。で、「かなり先の素晴らしい景色」でOKの場合もあるし「即やってくる素晴らしい景色」の場合もあるし、相手みていろいろ工夫しなきゃなんないところもありますね。もちろん中澤さんのところに来る人たちは一定以上先でもOKな人たちでしょうが。
もちろん「お金」もやし、そしてそれ以外のたくさんの喜び。
ところで、こういう文を読むと私はすぐ人に紹介したくなります。
で、息子の友だちの、やはり高校を1年で中退した青年に是非読んでほしいなあ、と思いました。別に鮨職人を目指せ、ってわけじゃないです。世の中にはいろんな人がいるのやなあ、ということを知っておくことは悪いことじゃない、そして彼に「おっちゃん、ここおるで」も伝えておきたいな、と思って。
息子に提案したらすごく嫌がりました。「そら変や」そらそうやろな。また妻も母も「変」と言います。いや私は変な人なの。
で、とりあえず私からの手紙も書いて息子に読ませたら「これ、めちゃくちゃ変や。こんなん渡す気??」
まあでも息子もメールで「おやじがこんな変なことを言ってるが・・・」みたいに伝えるだけは伝えてくれたようです。
で青年も「資料はもらいに行く」と返信してくれたとか。
まあ、結局私の気持ちがどうすむか、って話だけなんだけどね。
ラベル:中退 鮨 仕事 オタク