私の、この方面の知識はほぼ15年前で止まっていますので、的を射た意見を書けるかどうかはわかりませんが・・・この手の事柄がニュースに取り上げられるのは嬉しいのですが。
2011.1.3 00:00 産経ニュース

見出しもですが、書き出しの
「言葉や身体が不自由でも、念じるだけで意思を伝えることのできるシステムが、今年夏にも製品化されることが2日分かった。」
も何か誤解をまねきそうな表現ですね。例えば「水を飲みたい」と念じたらそれがそのまま音声で発声されたり、相手の脳に伝わる、みたいなイメージ。しかしよく記事を読むと
「患者は脳波が測定できる8つの電極がついた特殊な帽子(ヘッドキャップ)をかぶり、モニター画面に向き合う。頬に力を入れると電源が入り、画面に「飲食する」や「移動する」など複数の項目が順番に点滅する。選択したい項目が点滅するときに強く念じると、コンピューターが脳波の形状を読み取り、次の画面に進む。」
あれ?「頬に力を入れると」ってことは脳波スイッチじゃなくて、単なる筋電センサか?だったら8っつも電極いらんぞ。で、安くできるぞ。まあ脳波スイッチということで、以下の記事を続けます。
つまり、オートスキャン(画面上のハイライト(明るくなる)する場所が自動で動いていく)する意思伝達ソフトがパソコン上に起動されており、それを脳波センサーのスイッチによる on/off (というか on だけですが、それをソフトで1回のマウスクリックというかキーを押した時のように処理するようにしている)で操作する、という話なわけです。
これって大昔にも既にあったぞ。
「人間ゆうゆう(NHK教育)で脳波スイッチの実践が紹介されたが」
のエントリで書いた晃一くんは脳波スイッチをすでに使っていました。
晃一くんの桜吹雪―人工呼吸器をつけた少年と母の夢/荒木 智子

¥1,890
Amazon.co.jp
この本は2004年の8月に出版されてます。
その時の脳波スイッチはこちら。
マクトス

定価は38万円。なおこちらで晃一くんのエピソードは読めます。
株式会社テクノスジャパン事例紹介
私も直接お会いしたことがありますが、当時、彼はパソコンは使っていませんでした。しかし、当時最新のアメリカ製意思伝達装置(名前は忘れた)を販売会社からモニタとして使用させてもらっていたと思います。それがうまくフィッティングできたかどうかまでは継続しておつき合いしなかったのでわかりませんが。
なお、当時はβ波を使っており、フィッティングに関わってもいた方に聞いたところ、「ウンコの時にきばるあの感じでスイッチが入る」とのことでした。その人より晃一くんの方がうまかったそうです。慣れないと、スイッチングが難しいのは確かだったようです。
で、これをパソコンにつないで意思伝達ソフトと組み合わせれば、記事の環境は実現できるわけです。
今だと何があるんだろう。現在、私は少しうとくなっていますが、例えばこんなもの。
ボードメーカー with スピーキングダイナミカリープロ 日本語 ウィンドウズ版

これが98000円です。
で、パソコンですが、「障害のある人(だけには限らないと思うけど)に使い易いパソコンを安価で手に入れる」みたいなこと。
で、大事なことは、最新を追求するよりもシステム全体が安定していること。今だったらWindowsXPパソコンがいいのかもしれません。これが10万円以下でしょう。
ってことは58万円あればできちゃう。
記事では
「医療機器メーカーを通じて発売する予定で、価格は50万円以下になる見込みという。」
とのことです。確かに、現時点で実現できる物より安くなるのはいいことです。しかし
「 システムは昨年12月に厚生労働省を通じて日本生活支援工学会の倫理審査の承認を取得。産総研では月内にも在宅患者を訪問し、使い勝手の検証などを急ぐ。
開発をめぐる研究事業は21年度補正予算で10億円の助成金対象となり、22年度から実用化に向けた取り組みが本格化していた。」
バックで10億円使ってる!!
・・・何に10億円使うのやろう・・・う〜〜ん。
センサ(スイッチ)の使い易さ、確実性が上がる?
ソフトが使い易くなる?
そういうことがあるのかもしれません。実物を比較したわけではないし、私も引退しちゃった人間なので、しかとはわからないところがあります。
しかし、
ハードについてはテクノスジャパンに依頼。
ソフトについてはスリーテンに依頼。(「あのね♪」を作った会社)
アドバイザーに大西 俊介(障害者相談支援専門員:office syun )さん、田代 洋章(福祉情報技術コーディネーター:NPO法人 e-AT利用促進協会)さん、あたりを呼んで来る。
これって「アンテナショップin姫路」の時のメンバーや・・・
でもって開発費を1〜2億円出せば、ごっつい安くてええもんできるんとちゃうやろか。そんなかからんかもしれん・・・あるいは現在のシステムを使いたい障害のある人に補助金を出したほうがよっぽど良いのじゃないかしらん。
事業仕分けの時の「科学技術に対する予算が削られる」という危機感が語られることがありましたが、金額の問題もだけど、「どこにお金を投資するか」ってすごく大事じゃないかなあ。
これって「公」の不効率の話じゃないのかなあ。
それとコメント欄にsyunさんやもずらいとさんの書いて下さったこととも関わって、記事中に
「進行性の神経系難病患者らの要請が相次いだため、」
となっています。この「難病患者」さん、関わるお医者さんや医療関係者、またこの度の開発に関わった産総研の方々、どれだけ過去の実践事例や開発されている物を知っているのだろうか。これだけ情報伝達や検索が簡単になった時代に、まだまだ必要な人のところへ必要な情報が届いていないのじゃないだろうか。それが気になります。