図書館で借りて来ました。
西原理恵子月乃光司のおサケについてのまじめな話 アルコール依存症という病気/西原 理恵子
今まで西原さんが短い文で「アルコール依存については即専門医にかかること」と書いてはるのを読んで、少し違和感を持っていました。そんな専門家、専門家言うてもなあ・・・みたいな。でもこの本を読んでよく理解できました。やっぱりこれだけの分量がいるんですね。
私が、中身を少し紹介したとして、この本全部に書いてあることは伝わらないでしょうから、是非実際に読んで頂きたいです。980円ですし。
第1章 酔っぱらいの家族として 西原さん。
「いちばんわかりやすいたとえは、お酒を飲んでいる人が、ある日その人にだけ、お酒が覚醒剤になってしまう病気なんです。多くの人にとっては単なるお酒が、覚醒剤ぐらい強い依存を引き起こしてしまうという人が世の中にはいます。不幸にして覚醒剤中毒になってしまった人に、根性がないとか、なんでがまんできないのかなんて、そういう理屈は通用しない、ということをわかってほしいのです。」
「鴨ちゃんの場合は、海外取材にも出かけて、仕事もバリバリこなしていたし、飲まなきゃ飲まないで何か月も平気でいたので、本人も私も、よもや病気だとは思ってもいませんでした。」
「『何で離婚しないの?』と、人から言われたのですが、離婚するには、ものすごくエネルギーを必要としますから、そんなよけいな体力はありませんでした。それに、おかしいときに捨てるんだったら家族じゃないと、そう思っていましたから。病気のときに、いっしょにいてくれるのが家族、何かあったときのために家族がいるわけで、いいときだけそばにいたってどうしようもないでしょう。」
と考えてしまって、えらいことになってしまった、という話なわけですね。
「この病気は、つまりは家族が割に合わない病気なんです。だれかに相談するにしても、家族の悪口を第三者に話すことになってしまう。家の中のことだから、だれに助けを求めていいかわからない。家族の悪口を言って、一体それが何になるんだろうってことですよね。」
と考えて、外部に相談しにくかった、という話ですね。でも本当は精神科とか相談できるところに相談すべきだったと。
「私がいちばん後悔しているのは、六年間、がまんしてしまったことです。もうちょっと早く離婚して、捨ててあげれば、彼ももっと早く治療につながって、人として長く生きられたんではないかと思うことがあります。
専門用語では、『底つき』と『気づき』というのですが(中略)自分で決めて、自分の後始末は自分でするしかないということに本人が気づくまで、周囲は放っておいてやらないといけないんです。
うちの場合は図らずも、わたしが離婚を決意することで、夫が『底つき』体験をして、専門の治療に向かうことになりました。」
もちろん離婚するかしないかはそれぞれの家庭の状況によるでしょうが。
そう言えばフォーククルセダーズ時代の北山修がラジオパーソナリティをやっていて聴取者の若い女の子から
「彼がシンナーを吸っているんですが」
と相談を受けて
「別れなさい。すぐに」
と即答していたのを思い出します。
「アルコール依存症は、精神科の扱いなんです。風邪をひけば内科、妊娠すれば産婦人科と、それぞれ専門の窓口があるように、アルコール依存も専門医でないかぎり、的確なアドバイスは期待できません。鴨ちゃんだって、それまでに医療機関のお世話になってきてはいましたが、内科や外科にかかっているうちは、はっきり言って、お酒の問題は解決しませんでした。多くの医者はアルコール依存症について、よく知らないと思っていても間違いないでしょう。」
これはね・・・特別支援教育でも、肢体不自由児だとか聴覚障害児だとかにすごくいい実践を積み上げている方でも、自閉症の人への対応を問われてとんちんかんなことを言う、というのはよく経験して来ました。指導主事さんだとか大学教授だとかでも。特別支援教育の場合「自閉症の人への対応OKです」みたいな看板は無いなあ・・・
「船から捨てる覚悟で離婚をしたものの、子どもたちにとっては父親ですから、休日には子どもたちといっしょに外で会ったり、入院中は、お見舞いに行ったりしました。
子どもたちには父親の姿を、あるがままに見せました。酒と垢にまみれているのも、全部見せただけでした。大人がいろいろ解説しなくても、ちゃんと見ていれば、もう判断できるんです。子どもたちはそういうところを自分の目で見て、『おとうさん、大好き』って言っていましたね。ダサいも臭いもないです。ボロボロになっている父親を見て、それでいて、『おとうさん、だ〜い好き』でした。だからやっぱり見せてよかったと思っています。見せていなかったら、多かれ少なかれ、家族の間で悪口が生まれることになっていたかもしれません。」
「わたしは自分の体験から、依存症の旦那さんが治療もせずにいるという奥さんには、そこから逃げて下さい、と言いたいです。本人を一人にしてあげて、気づかせないといけないんです。家族は寄り添うことで、助けているつもりでも、結果的に、本人が飲むのを助長する図式になってしまうのですから。」
「いちばんたいへんな例では、小さい子どもを抱えて、旦那が暴れているけれど、お金は旦那が入れているという場合。これなども、相談機関が必ずあるので、役所に電話をかけるなどして、『一人で抱え込まないで』と、声をかけてあげたいです。
精神科や専門病院の敷居が高く感じられる人でも、家族会などに行けば、うちの場合はこうでした、わたしの場合はこうでしたと、必ず違う風が吹いてきます。そうした経験者の蓄積に接すると、自分の家族がどの段階なのか、あるいは、似たような体験や思いあたることがたくさんあって、しちゃいけないことなどがわかってきます。」
とにかく、何でも「閉じちゃいけない」「オープンに助力を求める」ということですね。
「夫は最期に、『子どもを傷つけずにすんだ。人として死ねることがうれしい』と言っていました。」
「夫が腎臓がんの末期で、最期に入院していたときだったんですが、
『がんになるとこんなにかわいがってもらえるのか』とポツンと独り言を言いました。その一言が忘れられないのです。
『アルコール病棟のやつら、元気にしているかなぁ』と仲間を心配するような、やさしい男でした。」
「鴨ちゃんのことで絶対に学んだのは、プロしかできないこと、プロしかしちゃいけないことがある、ということでした。家族にできる限界というのも思い知って、親の介護も、お金を払って、プロに頼むべきだと思いました。kれが、奥さんに仕事がなかったりすると、『介護の手はお前がいるじゃん』と、安易なことになるんです。
働くことは精神衛生にもよくて、家の中だけにいると、子どものことだけに腹が立ったりして煮詰まることもあるでしょう。子どもにだって子どもの時間が必要で、家族は一日三時間だけ顔を合わせて、なかよくやっていこうや、ぐらいがちょうどいいんだと思います。母ちゃんが朝から怒っていたら、だれだって嫌ですからね。ですから女性はできるだけ外に向いていて、健全で明るく、豊かに暮らして欲しいと思います。」
あれ?鴨ちゃんの話から子どもの話になってる。まあ本当のことだと思います。
コラム1お酒の適量を知っておこう 厚生労働省の推進する「21世紀における国民健康づくり運動」で「節度ある適度な飲酒」は1日平均純アルコール約20g。
アメリカ14g。ニュージーランド10g。デンマーク12g。英国8g。
ってことは、日本、多すぎるやろ!
ということで近年は1日10gという基準量が提案されているそう。これはビール250ml。日本酒5合。ウィスキーシングル。焼酎50ml。ワイン100ml。
第2章 わたしのアルコール依存症カルテ過去・現在・未来 月乃光司さん。
日本のアルコール依存症者は推計80万人。成人男性の50人に1人。成人女性の1000人に1人。依存症の疑いのある人は440万人。
第3章 アルコール依存症という病気 西原さんと月乃さんの対談。
西原「月乃さんの引きこもりは、具体的にどんなふうだったの。」
月乃「よく覚えていないんですが、実家の壁は穴だらけです。やり場のない怒りと恨みで、けりまくっていたようです。アルコール依存症になると、恨みの感情が特に高まるんですよ。」
西「鴨ちゃんも、毎日『あいつさえいなければ、あいつさえいなければ、あいつさえいなければ』と呪文みたいに唱えていました。」
月「治療を始めてからも、自分の恩人に対して憎しみの感情が出たことがあった。わたしが今生きているのもその人のおかげなのに、その人に対して猛烈に恨みの感情がわいてきて・・・。その人にも僕は依存していたんですよね。」
月「わたしの場合、アルコールが切れると、自分が出せるかぎりの大声を出すようで、目が覚めたら夜中や朝を問わず、恨みつらみを大声で叫ぶ。近所迷惑だからやめろと注意されても、病気の僕はやめられないんですよ。それで母親は、病院からもらってきた抗酒剤をわたしの食事に混ぜたりして・・・。症状を抑えようという親心だったんだけど、これはとんでもなく間違った用法なんです。」
西「抗酒剤の作用って相当苦しいみたいですね。」
月「抗酒剤というのは、今日は酒を飲まないぞというときに、自分自らが飲む薬。これを飲んでから飲酒すると、七転八倒の苦しみがやってくるんです。知らずに食事して飲酒して苦しくなると、これは母親のしわざだと気づいて、俺を殺すつもりかと部屋に怒鳴り込む。こんな粗暴な人間と365日いっしょにいたら、だれでも変になります。」
西「わたしはこの問題で相談されると、まずは家族で自助グループやカウンセリングに参加してみてくださいと伝えています。それから家族で話し合うときは、家ではなくて、三十分でもいいから場所を変えてくださいとも。これはカウンセリングの先生からアドバイスしてもらったことなのですが、時間を決めて場所を変えて話し合いの場をもつことはとても効果的なんです。」
月「介入のタイミングも難しいですからね。やはり後ろ楯が必要です。医療関係者、保健師、ケースワーカーなどの専門家を中心に、家族、会社の関係者が一堂に会して当事者と対峙し、これだけの人間があなたと関わっているということを示すのは、効果的な方法といわれます。」
月「精神的なDVも生活保護を受ける要件として認められることは知っていたほうがいいですね。」
西「ある依存症の家族の人が言っていたな。『DVといっても、わたしなぐられたことないの』って。直接的な暴力でなくても、精神的なDVもじゅうぶんDVとして認められます。そうした対応策があることは、けっこう知られていないんですよね。着の身着のままだっていいじゃにですか。子どもに学校ひと月くらい休ませたっていいじゃないですか。わたしの離婚はそうしました。これはまずいと危険を感じたら、とにかく今すぐ逃げなさいと。それを決断するのは本人だけなんですね。」
月「そうです。わたしはお酒をやめてからも壮絶な恨みつらみが継続していて、一人で家にいると、大声で独りごとを言ったり、親に当たったりしていました。それがすっかり抜けるまでに三年かかりました。」
あとがき 月乃光司
「アルコール依存症の典型的な最期は、食道静脈瘤の破裂、自殺、交通事故、転倒である。酒を飲み続け、周りから『あいつはだらしない。ダメなやつだ』と軽蔑され、家族は地獄を見続けて、果ては、おだやかな死からは遠い。しかも飲み続ければ、必ず命を縮めてしまう。
知らず知らずに死に急いでいる人が、一人でも生き残るきっかけを本書でつかんでもらえれば、こんなにすごいことはないだろう。
酒で死ぬ予定の人が、生きるきっかけをつかめること−それが本書の目標だ。」
巻末に相談先がたくさん出ています。